建設業法における改正内容とは?事業者として把握・実施すべき重要ポイントも解説

目次
建設業界では、業者の責務強化や働き方改革の推進、生産性向上など業界全体に大きな変革が迫られています。
令和6年に閣議決定された今回の改正は、人手不足や長時間労働、適正な利益確保といった建設業界特有の課題に対応するための重要な施策と言えるでしょう。
本記事では、改正建設業法について以下の観点から詳しく解説します。
- 改正の概要や背景
- 改正の公布・施工日
- 具体的な改正内容
さらに、今回改正を踏まえて事業者が取り組むべきポイントもあわせて紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、今後の事業運営の参考にしてください。
建設業法の「改正」とは

建設業界は、社会経済の変化に即応するために常に法改正を重ねてきました。
今回の改正は特に「担い手不足」という深刻な課題に取り組むべく、以下に焦点を当てています。
- 労働環境の改善
- 契約の適正化
- 生産性向上
ここでは、建設業法改正の概要や背景、そして公布・施工日について順を追って解説します。
参照
- 国土交通省|「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定~建設業の担い手を確保するため、契約取引に係るルールを整備~
- 国土交通省|持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法の一部を施行します~「建設業法施行令及び国立大学法人法施行令の一部を改正する政令」等を閣議決定~
改正の概要
今回の改正は、大きく以下3つの柱で構成されています。
労働環境の改善 |
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契約の適正化 |
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生産性向上 |
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改正の背景
建設業は他産業と比べて賃金水準が低く、長時間労働が常態化しやすいという構造的な問題を抱えています。
結果、担い手不足が深刻化し、業界が持続的に発展するうえで大きな支障となっていました。
さらに、近年の資材価格高騰は、経営を圧迫するだけでなく、労働者の賃金にも悪影響を与えかねない状況です。
加えて長時間労働の問題が根強く残るため、業界全体での働き方改革が求められています。
今回の改正は、建設業界が抱える課題を総合的に解決し、地域のインフラを支える「守り手」として今後も安定的に機能するための一歩となるものです。
改正の公布・施工日
改正建設業法は、令和6年6月14日に交付されました。
基本的には、公布後1年6か月以内の政令で定める日から施行されることになっていますが、一部の規定は令和6年12月13日に施行されます。
具体的には以下のような内容が含まれます。
- 契約書の法定記載事項の追加
- 価格転嫁協議を円滑にする施策の導入
- 監理技術者などの専任義務の合理化
- 営業所技術者などの職務の合理化
- 処遇確保の努力義務の新設
- 情報通信技術の活用に関する努力義務の新設
- 公共工事における施工体制台帳の提出義務の合理化
特に注目されるのは「請負代金が1億円未満(建築一式工事の場合は2億円未満)」の工事において、一定の条件を満たすことで監理技術者が複数の現場を兼務できるようになる点です。
建設業法の改正内容

建設業法は建設産業の持続的な成長を後押しするため、社会情勢に合わせて随時見直しが進められています。
改正点を把握し適切に取り組むことで、建設業者はより安定的かつ持続的な事業展開を実現できるでしょう。
以下では、特に重要な改正ポイントについて整理します。
建設業者の責務強化と労働者の処遇改善
今回の改正の大きな柱として、建設現場で働く人々の処遇改善が挙げられました。
改正法では、建設業者に対して労働者の待遇確保が努力義務として課され、実施状況は国によって調査・公表されることになりました。
これにより、業界全体での待遇改善の意識が高まることが期待されます。
加えて、中央建設業審議会では「労務費の基準」を示し、著しく低い労務費での見積もりや契約を規制することで、適正な賃金体系を守る仕組みが整えられています。
さらに、不当に安価な請負代金で契約を締結する行為も禁止され、労働者の待遇改善に必要な原資の確保がより実効性を持って進められるようになりました。
リスク情報の提供義務化
資材価格の高騰などで請負代金や工期に影響が及ぶリスクがある場合、契約前に受注者が注文者へ情報提供する義務が課されました。
そのうえで、価格変動時の請負代金の変更方法を契約書に明記しなければなりません。
改正によって資材費の上昇分を適切に転嫁しやすくし、労務費が圧迫される事態を避けることが期待されています。
また、リスクが顕在化したときには、注文者が誠実に協議に応じる努力義務を負うことになり、建設業者とのより公正なパートナーシップの構築が促されます。
ICT活用による生産性向上と技術者配置の合理化
長時間労働の是正や生産性の向上が喫緊の課題となっている建設業界では、ICT(情報通信技術)の活用が改正を通じて強く推奨されています。
国が作成するICT活用のための現場管理指針に基づき、特定建設業者や公共工事の受注者には効率的な現場管理を行う努力義務が課されます。
また、現場技術者の専任義務が合理的に見直され、一定条件を満たした場合にはICTを利用して複数現場の管理を兼務できるようになりました。
さらに、公共工事では施工体制台帳の提出を省略できる場合も導入され、ICTを通じて施工体制を把握できれば提出義務を免除されます。
改正を通じて技術者をより有効に活用できるほか、事務負担の軽減による効率向上が見込まれます。
改正を踏まえて事業者が実施すべきこと

建設業法の改正に合わせて適切な対策を講じることで、建設事業者は今後の事業展開をよりスムーズに進められるでしょう。
以下では、具体的に注目すべき実施事項を解説します。
標準労務費の確認と見積もりへの反映
建設業法改正により、労働者への適正な賃金原資を確保する観点から、労務費の設定がより厳格に求められるようになりました。
国土交通省の中央建設業審議会が提示する「標準労務費」を指標に、自社の労務費を見直し、見積や契約に正しく反映させることが必要です。
具体的には、見積書に記載する材料費等を極端に低く設定することが禁じられ、また原価割れ契約の締結も禁止となりました。
企業としての妥当な利益を保ちつつ、労働者が正当な報酬を得られる仕組みを整えることにつながるでしょう。
リスク情報提供フローの構築と契約内容の見直し
資材価格の高騰や供給不足など、請負代金や工期に影響を及ぼすリスクがある場合、契約締結前に注文者へ情報を開示することが義務づけられました。
このため、建設事業者はリスク情報の収集と提供方法を明確化し、社内で共有するフローを整備する必要があります。
また、請負契約書に請負代金変更の手順を記載することが必須となったため、自社で使用している契約書雛形を改正内容に合わせて修正しなければなりません。
さらに、資材価格の急上昇などが実際に起こった場合は、注文者と誠実に協議を行い、スムーズな合意形成につなげることが求められます。
対応策を整えることで、契約をめぐるトラブルを未然に防止し、業務を円滑に進められます。
ICT活用と現場管理の効率化
生産性向上を目指すため、改正ではICT(情報通信技術)の活用が強く奨励されています。
特定建設業者は国土交通大臣が策定する指針に基づき、ICTを活用した効率的な現場管理に努める努力義務を負うことになります。
加えて、現場技術者の専任義務も見直され、一定の要件を満たす場合にはICTを活用し複数現場を兼任できる可能性が生まれました。
さらに、公共工事の施工体制台帳についても、ICT活用によって実際の施工体制を確認できる場合は提出義務が軽減されるなど、業務負担を減らすメリットも期待できます。
改正点をうまく取り入れることで、建設事業者は大幅なコスト削減や業務の効率アップを図ることが可能となるでしょう。
まとめ
建設業法改正では、建設産業が継続的に発展していくために、労働環境の改善や生産性の向上、そして公正な利益の確保など、さまざまな面で大きな見直しが行われました。
事業者にとっては、適切な労務費を算定するための見積手法の確立、リスク情報を的確に提供できる体制づくり、さらにICTを活用した業務効率の向上など、具体的な対応策が欠かせません。
改正の内容を正確に把握したうえで、自社の経営体制や日々の業務フローを見直すことが、コンプライアンスを徹底し、今後も持続的に事業を運営していくためのポイントとなるでしょう。