建設業が解決すべき問題点と解決策について
目次
建設業界には、人手不足や生産性の低迷、長時間労働など、さまざまな問題が内在しています。これらの問題点を放置すると、業界の持続可能性が危ぶまれ、社会インフラの維持にも支障をきたす恐れがあります。
本記事では、建設業界が直面する主要な問題点と、関連する以下のトピックについてまとめました。
- 問題を抱えながらも建設業に需要がある理由
- 建設業の問題を解決する方法
- 建設業の問題解決に重要な「ICT」について
今回紹介する情報は、事業を継続していくだけではなく、業界の課題解決に向けた具体的なヒントとなるでしょう。
建設業が抱える問題点
ここでは建設業が抱える、以下の問題点について解説します。
- 人材不足
- 人材育成の停滞
- 高齢化
- 長時間労働・出勤数の多さ
- 業界特有の慣習
- 賃金の低さ
- 資材不足に伴う高騰と円安
これらの問題は互いに関連し合い、業界全体の成長を妨げる要因となっているので、建設業を営むうえでは必ず把握しておくべきです。
人材不足
国土交通省の統計によると、建設業の就業者数は1997年のピーク時685万人から2021年には485万人へと、約29%も減少しています。
一方で建設投資は増加傾向にあり、需要と供給のバランスが崩れているのが実情です。特に地方での人材確保が困難になっており、大手企業や都市部への人材集中が顕著です。
この状況を改善するには、若年層の積極的な採用や、女性・外国人労働者の活用などの対策が必要になります。
人材育成の停滞
建設業界では、人材育成の停滞が大きな問題となっています。最も深刻な課題の一つは、指導する人材の不足です。
ベテラン技術者の退職や中堅層の不足により、若手への技術伝承が困難になっています。
建設業では専門性だけでなく、多角的な知識と経験が求められますが、部門別の配置によって幅広い経験を積む機会が限られている場合があります。
この問題を解決するには、計画的な人材育成プログラムの導入や、部門を超えた人事交流の促進が効果的です。また、デジタル技術を活用した教育システムの導入も、人材育成の効率化に役立つでしょう。
高齢化
建設業界は若手人材の減少により、業界全体の平均年齢が上昇し続けています。高齢化は、技術伝承や業界の活性化に大きな影響を与えています。
特に2025年問題が懸念されており、団塊の世代が75歳以上となることで、多くのベテラン技術者が引退する可能性があるのです。結果、貴重な技術や経験が失われる恐れがあります。
また、高齢の労働者はITやデジタル技術への適応が難しい場合があり、業界の技術革新の障壁となる可能性も懸念されています。さらに、高齢者特有の健康リスクも運営に影響を及ぼす要因です。
この問題に対処するには、若手の積極的な採用と育成、技術の継承システムの構築が不可欠です。
建設業における高齢化については、以下の記事でも詳しく解説しています。
>>>「建設業の若者離れは当たり前」と言われる理由と今後の対策案
長時間労働・出勤数の多さ
建設業界では、長時間労働と多い出勤日数が大きな問題となっています。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、令和3年の建設業の月間実労働時間は165.3時間に及び、全産業平均の136.1時間を大きく上回っていました。
国土交通省の資料でも、建設業の年間実労働時間は全産業平均より346時間多く、年間出勤日数も30日ほど多いことがわかります。この状況は労働者の健康や生活の質に悪影響を及ぼし、若手の入職を妨げる要因とも言えるでしょう。
改善策として、ICTの活用による業務効率化や、適切な工期設定、休暇取得の促進などが考えられます。
業界特有の慣習
建設業界には、時代に合わなくなった慣習が残っており、これが業界の発展を妨げる要因となっています。
例えば、デジタル化の遅れが顕著です。
建設業の許可申請、土木・建設工事の契約書、各種申請書、設計図など、膨大な書類のペーパーレス化が進んでいません。これにより業務効率が低下し、環境負荷も高くなっています。
また、高齢者が多く職人文化が色濃い工事現場では、行き過ぎた指導がパワハラにつながることもあります。
業界特有の問題を解決するには、デジタル化の推進やコミュニケーション研修の実施、若手の意見を取り入れる仕組みづくりなどが有効です。
賃金の低さ
建設業界の賃金の低さは、業界の発展を妨げる大きな要因となっています。特に若年労働者は見習い期間が長く、賃金が伸び悩むため、若者が建設業界に入りにくい状況です。
国土交通省の「賃金構造基本統計調査」によると、特に中小規模の企業で年収水準が低い傾向にあることがわかっています。
低賃金問題は、業界全体の人手不足に拍車をかけ、若年層の建設業界離れの主な原因と考えられるでしょう。
改善策としては、賃金構造の見直しや、政府からの支援強化、生産性向上による利益率の改善などが考えられます。
資材不足に伴う高騰と円安
建設業界では、資材不足による価格高騰と円安の影響が深刻な問題となっています。ロシア・ウクライナ戦争などの影響で、建設資材の価格が急騰しています。
特にロシアからの輸入が困難になったことで、他国からの輸入に集中し、さらなる価格上昇を招いているのです。加えて、円安の進行により輸入資材のコストが上昇し、建設コスト全体を押し上げています。
これにより、建設会社の利益率低下や工事の採算性悪化につながっているのが実情です。また、資材コストの上昇により人件費を含めた他の経費が抑えられ、従業員の給与水準にも影響を与えています。
建設業における円安の影響については、以下の記事でも詳しく解説しています。
>>>円安による建設業への影響とは?業界の今後や円安対策まで解説!
さらに、資材価格の上昇分を工事価格に転嫁することが難しく、建設会社の経営を圧迫しています。これらの要因から、業界内の倒産増加も問題視されているのです。
問題を抱えながらも建設業に需要がある理由
建設業はさまざまな課題を抱えていますが、依然として高い需要が続いています。国土交通省の調査によると、2020年度の建設投資額は約62兆円に達し、GDP全体の約10%を占めています。
建設投資額の数字は、建設業が日本経済において重要な位置を占めていることを示しています。
業界としての需要が高い主な理由として挙げられるのは、インフラ整備の必要性、都市開発の継続、住宅需要の持続などです。また、災害復興事業や政府の経済対策、新技術への投資なども建設業の需要を支えています。
これらの要因により、建設業は労働環境や生産性の課題を抱えながらも、社会的・経済的に重要な産業として高い需要を維持しています。
ただし、持続可能な発展のためには、業界が直面する問題の解決に向けた取り組みが不可欠です。
建設業の問題を解決するためには
建設業の問題を解決するためには、以下の観点に着目することが重要です。
- イメージアップ
- 賃金・労働環境の改善
- DXによる業務効率化
- 女性の積極採用
- 適切な工期設定
- 時間外労働への意識改革
これらの取り組みを総合的に進めることで、建設業界の持続可能な発展につながると考えられるでしょう。
イメージアップ
建設業界のイメージアップは、人材確保の観点から非常に重要です。現在、多くの人が建設業を「3K(きつい・きたない・きけん)」と認識しています。
ネガティブとも取れる印象を払拭するためには、安全で働きやすい職場環境を実現し、積極的に広報することが必要です。具体的には、最新の安全技術の導入や、快適な作業環境の整備、そしてワークライフバランスの実現などが挙げられます。
例えば、建設現場の清潔さや整理整頓を徹底し、SNSなどで発信することで、「きたない」というイメージの払拭にもつながるでしょう。こうした取り組みを通じて、建設業界の魅力を広く社会にアピールしていくことが求められています。
賃金・労働環境の改善
建設業界の問題解決には、賃金と労働環境の改善が不可欠です。
賃金を改善することで、人材確保と定着率の向上が期待できます。具体的には、能力や実績に応じた昇給制度の導入や、業績連動型の賞与制度の実施などが効果的です。
労働環境に関しては、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されるため、労働時間管理の徹底が急務となっています。
DXによる業務効率化
建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、業務効率化の鍵となります。
具体的なDX施策として挙げられるのは、BIM/CIMの導入によるデータ共有の効率化や、AIを活用した施工計画の最適化などです。
例えば、株式会社菊正塗装店では、ペーパーレス化やテレワークシステムの導入により、業務効率が20%向上したという事例があります。
ただし、DX推進にはIT人材の確保が課題となります。
建設業におけるDX化を進めるには、自社でのIT人材育成や、外部のSIer(システムインテグレーター)の活用を検討することが重要です。
女性の積極採用
建設業界における女性の積極採用は、人材不足解消の有効な手段です。国土交通省のデータを見ると、建設業における女性の採用率は近年上昇傾向にあるものの、2019年で16.8%と全体に比べ低い水準にあります。
女性が働きやすい環境を整備することで、新たな人材を獲得し、業界全体の活性化を図ることができます。
なお、女性を積極採用するための具体的な取り組みとしては、現場のトイレや更衣室の整備、育児・介護休暇制度の充実、女性管理職の登用などが挙げられます。
例えば、ある大手建設会社では、女性専用の休憩所を設置し、作業服のサイズも女性向けに用意することで、女性社員の定着率が20%向上したという事例があります。
こうした取り組みにより、多様な視点や能力を持つ人材の確保が可能となり、建設業界の発展につながると考えられます。
適切な工期設定
無理な工期設定が長時間労働や品質低下の原因になるため、適切な工期設定が不可欠です。
週休2日を確保した上で工期を全うできるよう、発注者・受注者双方で意識改革が必要です。
具体的には、天候や材料供給の遅延などのリスクを考慮した余裕のある工期設定や、工程管理ソフトウェアの活用による効率的なスケジュール管理などが挙げられます。
適切な工期設定により、従業員の働きやすさを向上させ、工事の品質を保つことはもちろん、建設業界全体の信頼性向上にもつながるでしょう。
時間外労働への意識改革
建設業界における時間外労働の削減は、働き方改革の中核をなす課題です。
発注者側は無理な工期での契約を避け、余裕を持った工期設定を心がけることで意識改革につながります。受注者側は不当な短納期での依頼は断り、適切な工期を算出した上で契約を締結することが重要です。
また、ICTツールを活用した労働時間の可視化や、ノー残業デーの設定、業務の効率化・平準化などの取り組みも効果的です。
建設業の問題解決に重要な「ICT」とは
ICT(Information and Communication Technology)とは、デジタル化された情報の収集、処理、伝達を効率的に行える情報通信技術のことです。建設業界が直面する多くの問題を解決する鍵として、ICTは注目されています。
ここでは、ICTが建設業で求められる理由と、その導入効果について詳しく見ていきましょう。
建設業でICTが求められる理由
建設業においてICTが求められる理由は、生産性の向上や労働力不足の解消、品質や安全性の向上に加え、コスト削減・技術の伝承・働き方改革・迅速な意思決定、そして顧客満足度の向上にあります。
ICTの活用により、作業効率が向上し、省力化が進みます。少子高齢化による人手不足を補い、3次元データやセンサー技術を活用した精密な施工と安全管理も実現できるでしょう。
さらに、効率化と無駄削減によりコストを抑え、熟練技術者の知識をデジタル化して保存・共有することで技術の伝承が可能になります。
また、遠隔操作や自動化技術を用いることで労働環境の改善や長時間労働の是正が進み、リアルタイムデータの収集・分析による迅速かつ適切な意思決定にもつながるでしょう。
最後に、3D模型やVR/AR技術を使うことで顧客とのコミュニケーションが円滑になり、顧客満足度の向上が期待されます。
建設業にICTを導入することによる効果
建設業にICTを導入することで、多岐にわたる効果が期待できます。主な効果として挙げられるのは、人材不足の解消や生産性の向上です。
3Dスキャナーとコンピューターを使用した出来形管理システムの導入により、測量作業時間を従来の1/5に短縮できた例もあります。
さらに、労働環境の改善も重要な効果です。遠隔操作による建設機械の制御や、ウェアラブルデバイスを用いた作業員の健康管理など、ICTの活用により労働者の負担軽減と安全性向上が実現できます。
ICTの導入は、建設業界全体の課題解決と発展に大きく貢献する可能性を秘めています。
まとめ
建設業界は、人材不足や人材育成の停滞、高齢化や業界特有の慣習に加え、賃金の低さなどの問題が山積みとなっています。
インフラ整備の必要性や持続する住宅需要から業界としての先行き自体は不穏でこそないものの、問題を放置することは避けるべきでしょう。
建設業の問題を解決するためには、業界としてのイメージアップや賃金・労働環境の改善、DX化や適切な工期設定などが重要です。
2024年問題に関連する労働時間への意識なども含め、事業所全体で取り組む必要があります。
建設業でも重要視されるICTの導入なども含め、業界としての問題点の把握や付随する解決策の考案・実施について意識しておくことが重要になるでしょう。