建設業における労務費の単価|適用内容や人件費との違いについて

目次
工事原価を正確に把握するうえで欠かせない要素のひとつに「労務費」があります。
しかし、人件費との違いなどを理解していないと、見積やコスト管理で誤った計算を行い、結果として適切な利益を確保できなくなる可能性があります。
本記事では、建設業における労務費について以下のポイントを解説します。
- 概要や人件費の違い
- 労務費計算の重要性
- 建設業における労務費単価の特徴
- 建設業における労務費単価の適用内容
適正なコスト管理を行うためには、労務費単価を正しく理解し、透明性のある計算を行うことが不可欠です。
適切な利益確保のためにも、労務費の仕組みを押さえておきましょう。
建設業の「労務費」とは

建設業における労務費とは、工事のために必要な労働力にかかる費用のことです。
具体的には、現場作業員の賃金(工賃)や間接労務費に分類されます。
直接労務費は特定の工事に対して発生する作業員の賃金を指し、間接労務費は複数の工事に共通して発生する費用(賞与・退職給付金・法定福利費など)が含まれます。
人件費との違い
労務費と人件費の大きな違いは、その対象範囲にあります。
- 労務費:工事に直接関わる作業員の賃金や手当、福利厚生費などを指し、工事原価の一部として扱われる
- 人件費:企業全体の従業員にかかる費用の総称であり、工事現場の労働者だけでなく、管理部門の従業員の給与や役員報酬、法定福利費も含まれる
労務費は工事の進捗や作業量に応じて変動する変動費ですが、人件費は総務や経理といった管理部門にも発生し、工事の有無に関係なく発生する固定費も含みます。
そのため、工事原価の正確な管理を行うには、労務費と人件費を明確に区別することが重要です。
労務費計算の重要性
建設業において労務費を正確に算出することは、以下の3つの観点から非常に重要です。
工事原価の適正管理 |
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法定福利費の適正な算出 |
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労務トラブルの防止 |
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建設業における「労務費単価」とは

建設業において「労務費単価」は、公共工事の積算に用いられる賃金単価のことです。
適切に理解することで、工事費の適正な算出や労務管理の向上につながります。
ここでは、労務費単価の概要や算出基準について詳しく解説します。
公共工事設計労務単価とは
公共工事設計労務単価とは、国土交通省が公共工事の予定価格を算出するために使用する単価で、建設労働者の賃金実態を基に決定されます。
算定には、農林水産省や国土交通省が1970年から継続して実施している調査結果が反映されています。
2024年3月からは、全国全職種の単純平均が前年度比5.9%増加し、加重平均値は2万3600円となりました。
2013年度の改定以降、法定福利費相当額の加算などが行われており、この引き上げは12年連続となります。
労務費単価の構成要素
公共工事設計労務単価は、以下4つの要素で構成されます。
- 基本給相当額(個人負担分の法定福利費を含む)
- 基準内手当
- 臨時給与(賞与など)
- 実物給与(食事の支給など)
ただし、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金や、特殊な作業条件に基づく手当、現場管理費(事業主負担分の法定福利費、研修費など)、一般管理費といった諸経費は労務費単価には含まれません。
なお、下請代金からの値引きは不当行為に該当するため、十分な注意が必要です。
令和6年度の労務費単価の動向
国土交通省は、2023年度に実施した公共事業労務費調査を基に、2024年3月より適用される労務費単価を決定しました。
全国全職種の加重平均値は2万3,600円となり、前年から5.9%の引き上げが行われています。
主要12職種の加重平均値は2万2,100円となり、職種ごとの単価は以下の通りです。
- 特殊作業員:2万5,598円(+6.2%)
- 普通作業員:2万1,818円(+5.5%)
- 軽作業員:1万6,929円(+6.3%)
出典:国土交通省|令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について
自社における労務費単価設定のポイント
社内で労務費単価を決定する際は、労働市場の実勢価格を反映し、全国47都道府県・51職種別に設定することが重要です。また、適正なコスト管理と労働者の適正な賃金確保を両立させる必要もあります。
単純な給与だけでなく、以下のような要素を含めて算出しましょう。
基本給 | 日給・時給・月給などの基本的な賃金 |
基準内手当 | 役職手当、資格手当、住宅手当など |
時間外・休日・深夜割増 | 労働基準法に基づく割増賃金 |
賞与・特別手当 | ボーナスや成果に応じた手当 |
法定福利費 | 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などの会社負担分 |
法定外福利厚生費 | 企業独自の福利厚生(退職金制度、慶弔見舞金、社宅など) |
安全管理費 | 作業着・ヘルメット・保護具などの支給費用 |
教育・研修費 | 技能講習、特別教育、資格取得支援費用 |
労務費単価の確認方法
公共工事設計労務単価の最新情報は、国土交通省不動産・建設経済局建設市場整備課や各地方整備局技術管理担当課で閲覧できます。
最新情報を活用することで、適正な労務費管理をが可能になるでしょう。
建設業における労務費単価の適用内容

建設業では、工事の種類や内容に応じて異なる労務費単価が適用されます。
特に公共工事においては、国土交通省が実施する調査に基づいて決定された単価が用いられ、正確な理解と適用が求められます。
以下で、主要な労務費単価の種類と適用範囲について詳しく説明するので、ぜひ参考にしてください。
公共工事設計労務単価
国土交通省が公共工事の予定価格を算出する際に使用するのが、公共工事設計労務単価です。
建設労働者の賃金実態を基に、47都道府県・51職種ごとに設定されます。
2024年3月からは全国全職種の単純平均が前年度比5.9%増加し、加重平均値は2万3600円となりました。
公共工事設計労務単価には、以下の要素が含まれます。
- 基本給
- 基準内手当
- 臨時の給与(賞与など)
- 実物給与(食事支給など)
ただし、時間外労働の割増賃金や法定福利費(事業主負担分)、研修訓練費・一般管理費などの諸経費は含まれません。
出典:国土交通省|令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について
設計業務委託等技術者単価
設計業務委託等技術者単価は、国土交通省が発注する設計・測量・地質調査などの業務委託の積算に適用される単価です。
設計業務や測量業務、航空・船舶関連業務や地質調査業務などに従事する技術者に適用されます。
技術者の給与実態調査をもとに20職種(職階)ごとに設定され、2024年3月からは、全職種(職階)の単純平均で5.5%引き上げられ、4万6880円となりました。
設計業務委託等技術者単価に含まれるのは、以下の要素です。
- 基本給相当額
- 諸手当
- 賞与相当額
- 事業主負担額(退職金積立、健康保険など)
ただし、時間外労働の割増賃金や、通常の作業条件を超えた労働に対する手当は含まれません。
出典:国土交通省|令和6年3月から適用する設計業務委託等技術者単価について
建築保全業務労務単価
建築保全業務労務単価は、各省庁の施設管理者が建築保全業務の費用を積算する際に使用する参考単価です。
全国を10地区に区分し、技術者区分ごとに算出されます。保全技師・保全技術員・清掃員・警備員などの職種に適用されるもので、構成は以下のとおりです。
- 日割基礎単価(基本給相当額・基準内手当・臨時の給与を含む)
- 割増基礎単価率
- 宿直単価
時間外労働の割増賃金や通常の作業条件を超えた労働に対する手当、業務管理費などの諸経費は含まれません。
出典:国土交通省|令和6年4月から適用する建築保全業務労務単価について
電気通信関係技術者等単価
電気通信関係技術者等単価は、国土交通省が発注する電気通信設備工事や保守業務の積算に使用される単価です。
電気通信関係技術者の賃金実態調査をもとに、5職種ごとに設定されています。
適用対象は、電気通信技術者・電気通信技術員・点検技術者・点検技術員、運転監視技術員などです。
2024年3月からの適用では全職種平均で5.4%の引き上げが行われ、3万800円となりました。電気通信関係技術者等単価には、以下が含まれます。
- 基本給相当額
- 基準内手当
- 臨時の給与(賞与など)
- 実物給与
時間外労働の割増賃金や、通常の作業条件を超えた労働に対する手当、現場管理費などの諸経費は電気通信関係技術者等単価に含まれません。
出典:国土交通省|令和6年3月から適用する電気通信関係技術者等単価について
鋼橋積算基準の直接労務単価
鋼橋積算基準の直接労務単価は、国土交通省が発注する鋼橋や横断歩道橋の製作費積算に使用される単価です。
鋼橋製作にかかる労務者の賃金調査をもとに設定され、2024年3月からの適用では2万9,500円とされています。
この単価には、以下が含まれます。
- 基準内給与
- 通勤手当
- 賞与
- 退職金
なお、適用対象は鋼橋製作工として工場内で橋梁製作や加工、組立作業に従事する技能工です。
出典:国土交通省|令和6年3月から適用する鋼橋積算基準の直接労務単価(鋼橋製作工)について
まとめ
本記事では、建設業における労務費と人件費の違いを明確にし、労務費計算の重要性について解説しました。
さらに、公共工事設計労務単価をはじめ、設計業務委託等技術者単価や建築保全業務労務単価、電気通信関係技術者等単価や鋼橋積算基準の直接労務単価など、多岐にわたる労務費単価の種類や、令和6年度の改定内容にも言及しました。
正確な労務費単価の把握と適用は、コストの見積精度向上や工事全体の収益性を高めるうえで不可欠です。
建設業の健全な発展と安定した経営を維持するためにも、最新の情報を継続的に確認しながら、適切に労務費単価を管理していくことが求められます。