建設業における労務費の計算方法|管理・見直しのポイントや労務費率について

目次
建設業では労務費が全体の経費の大きな割合を占めており、適切な管理が不可欠です。
もし労務費の計算や運用が適正に行われなければ、コストの膨張や利益の圧迫につながるため、定期的な見直しが求められます。
本記事では、労務費の内訳や種類を整理したうえで、計算方法について詳しく解説します。
さらに、労務費を効率的に管理するために導入を検討したい以下の手法も紹介します。
- 給与体系の見直しと透明性の確保
- エクセルを活用した労務費管理
- 労務管理システム導入による管理
- 業務効率化と人員配置の最適化
- 外注の活用と機械化・自動化の導入
また、建設業において重要な「労務費率」についても最後に解説するので、ぜひ参考にしてください。
建設業における労務費の概要

建設業における労務費は、工事原価の大部分を占める重要な要素であり、正確な管理が企業の収益に直結します。
労務費の適切な把握により精度の高い積算が可能となり、経営の安定にも貢献します。
ここでは、労務費の内訳や種類について詳しく説明します。
内訳
労務費とは、工事に従事する労働者の賃金や手当、企業が負担する社会保険料などを含む費用を指します。
具体的には、以下の項目が挙げられます。
- 従業員の基本給や賃金
- アルバイトやパートタイマーへの給与(雑給)
- 社会保険料
- 残業手当や深夜勤務手当
- 交通費(通勤・出張)
- 休日出勤手当
- 資格手当や特別手当
建設業においては、現場作業のリスクを考慮し、労災保険料も労務費に含める必要があります。
労務費は工事現場で働く人々の労働対価であり、事業運営のうえで欠かせない要素です。
種類
労務費は、役割によって「直接労務費」と「間接労務費」の2つに分類されます。
- 直接労務費:工事や製品の製造に直接関わる従業員に支払われる賃金や手当(現場作業員の給与や製品の組み立て作業の賃金が該当する)
- 間接労務費:工事や製造の管理やサポートを担う従業員に支払われる賃金や手当(管理職やサポートスタッフ、工場の監督者やメンテナンス担当者の給与などが含まれる)
労務費は業務の性質に応じて分類され、それぞれ異なる役割を果たしています。
適切な管理を行うことでコストの最適化と経営の安定が実現できるため、正確な把握が求められます。
労務費の計算・管理が重要な理由

建設業において労務費の計算と管理が求められるのは、コストを適正に抑えつつ、労働環境の向上や見積もり精度の向上、そして企業の健全な経営を実現するためです。
工事原価の多くを占める労務費は、適切な管理を行うことで無駄を省き、利益率の向上につながります。
また、労務費を正確に把握することで最適な人員配置が可能になり、長時間労働の抑制など働きやすい環境の整備も実現します。
さらに、過去のデータを活用しながら労務費を管理することで見積もりの精度を高め、予算とのズレを最小限に抑えることも可能です。
建設業における労務費の計算方法

労務費の計算は、建設業の積算業務において極めて重要な工程です。
正確な計算を行うことで工事原価の適正な把握が可能となり、利益確保にもつながります。
ここでは、特に重要な 直接労務費と間接労務費の計算方法について詳しく解説します。
直接労務費
直接労務費とは、工事の現場で作業を行う労働者の賃金を指します。
基本的な計算式は以下のとおりです。
賃率 × 作業時間 |
賃率の算出は、以下の計算式を使用し、1時間あたりの賃金を示します。
直接工の賃金 ÷ 製品製造の直接作業時間 |
直接労務費の計算において重要なのは、作業ごとの必要人員や作業時間を適切に見積もることです。
また建設業では、次のような計算式も一般的に用いられます。
所要人数(設計作業量 × 該当作業の歩掛) × 労務単価(基本日額 + 割増賃金) |
歩掛とは、特定の作業に必要な労働量を数値化したもので、国土交通省が公表している標準歩掛を使用するのが一般的です。
ただし、自社の職人の熟練度に応じて調整することも可能です。
直接労務費を正確に算出することで工事原価を明確に把握し、適正な価格設定につなげられます。
間接労務
直接労務費以外の人件費を指す間接労務費は、次の式で計算されます。
労務費総額 - 直接労務費 |
間接労務費には、以下のような項目が含まれます。
- 現場監督や事務員の給与
- 機械のメンテナンス費用
- 福利厚生費
- 直接工が行う機械の修繕作業など、直接製造に関わらない業務の賃金
上記は実際の工事作業には直接関与しませんが、事業を運営するうえで欠かせないコストです。
間接労務費の適切な管理を行うことで、コスト全体の構造を把握し、無駄の削減が可能になります。
労務費を管理・見直す方法

建設業における労務費の管理は、コスト削減や労働環境の向上、さらには企業の収益性を高めるために欠かせません。
適切な管理手法を取り入れることで無駄な支出を抑え、より効率的な経営が可能になります。
ここでは、労務費の適正な管理に役立つ具体的な手法について解説します。
給与体系の見直しと透明性の確保
労務費を見直す際に重要なのが、給与体系の適正化です。
現行の給与制度が、従業員のモチベーションや業務の生産性向上に寄与しているかを確認することが求められます。
例えば成果に応じたインセンティブ制度や、スキルアップを支援する資格手当の導入により、従業員の意欲を高めることが可能です。
また、給与体系の透明性を確保することも欠かせません。
給与の決定基準を明確にすることで、従業員の不満を軽減し、公正な労働環境を整備できます。
さらに、市場動向や従業員の貢献度を反映した定期的な給与改定を実施することで、優秀な人材の確保にもつながります。
エクセルを活用した労務費管理
労務費管理の手法として、手軽に導入しやすいのがエクセルの活用です。特別なシステム導入コストをかけずに始められる点が、エクセルのメリットといえます。
多くの人が基本操作に習熟しているため、導入のハードルが低いのも特徴です。
また、関数やマクロを活用することで労務費の計算や分析を自動化し、効率的な管理が可能になります。
ただし、エクセルは関数やマクロの知識が求められるほか、オンラインでの情報共有には向いていないというデメリットもあります。
そのため、小規模事業所や、高度な機能を必要としない場合に適した管理方法といえるでしょう。
労務管理システム導入による管理
より専門的かつ効率的に労務費を管理したい場合は、労務管理システムの導入が有効です。
労務管理に特化したシステムは、現場で発生するさまざまな課題に対応できるよう設計されています。
特に、オンラインでの情報共有が容易であり、労働時間や給与、休暇などのデータを一元管理できる点が強みです。
リアルタイムでの労務費の把握や分析が可能となり、迅速な意思決定につなげられます。
ただし、導入コストがかかる点や、システムに慣れるまで一定の時間を要する点は考慮しなければなりません。
業務効率化と人員配置の最適化
労務費を効果的に管理するには、業務の効率化と人員配置の最適化も重要です。
業務フローを見直し、不要な作業を削減することで、労務費の圧縮が可能になります。
例えば、タスク管理ツールの導入や、従業員への効率的な作業手法の指導が効果的です。
また、従業員のスキルや経験を評価し、適切な業務に配置することで、生産性を最大限に引き出せます。
さらに、クロストレーニングを実施し、複数の業務をこなせる従業員を育成することも、労務費の削減につながる有効な手段です。
これらの取り組みを進めることで、人員配置の最適化を図り、より効果的な労務費管理が実現できます。
外注の活用と機械化・自動化の導入
一部業務を外部の専門業者に委託することで固定費を変動費へと転換し、コスト削減につなげることが可能です。
さらに、機械化や自動化を進めることで人的ミスを削減し、作業時間を短縮できます。
労務費の削減だけでなく、業務の精度向上や安全性の強化にもつながります。
あわせて覚えておくべき「労務費率」とは

労務費率とは、建設業における請負金額に対する賃金総額の割合を示す指標です。
一般的に労災保険料は、以下の方法で算出されます。
賃金総額 × 労災保険料率 |
しかし、建設業では下請け構造が複雑であるため、正確な賃金総額を把握するのが難しいという特徴があります。
そこで、以下の計算式を用いて労災保険料を算出する方法が採用されています。
請負金額 × 労務費率 × 労災保険料率 |
労務費率は厚生労働省によって工事の種類ごとに定められており、定期的に見直されます。
労務費率を正しく理解し、適切に適用することは、建設業における労災保険料の正確な算出に不可欠です。
誤った計算を避けるためにも、最新の労務費率を確認し、正しく運用することが求められます。
まとめ
建設業において、労務費はコスト管理の中核を担う重要な要素です。
適切な計算と管理を実施することで、利益率の向上や経営の安定を実現できます。
直接労務費と間接労務費の違いを正しく理解し、給与体系の見直しや透明性の向上を図ることが求められます。
また、エクセルや労務管理システムの導入による業務の効率化、人員配置の最適化、外注や機械化の活用など、多角的な手法を取り入れることが効果的です。
さらに、労務費率を把握し、業界水準と比較することで、より精度の高いコスト管理が可能となります。
労務費の適正な管理は、企業の健全な経営に直結します。
本記事の内容を活用し、自社の労務費管理体制を見直すきっかけとしてください。