建設業における残業時間の現状は?残業を削減する取り組みを紹介
目次
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、建設業の労働時間は全産業と比較して、年間330時間以上も多いのが実情です。
また、建設業のなかでも、現場作業員よりも現場監督や施工管理者のほうが労働時間の長時間化が見受けられます。
長時間労働が常態化している建設業ですが、2024年4月から適用開始した時間外労働への上限規制への対応が求められています。
そこでこの記事では、
- 建設業界における残業時間の現状
- 建設業で残業が多くなる理由
- 建設業で残業時間を月45時間以内に抑えるのは可能か
- 建設業の残業時間を削減する取り組み
などを、詳しく解説します。
建設業における残業時間の現状
「建設業は休みがない」「建設業界は残業が当たり前」
このような声をよく耳にしますが、実態はどうなのでしょうか?
建設業における残業時間の現状を、全業界と建設業界のなかで比較して解説します。
全業界と比較して年間330時間以上も働いている
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、全産業と建設業の労働時間は以下の通りです。
月間実労働時間 | 月間所定外労働時間 | 月間出勤日数 | 年間実労働時間 | |
全産業 | 136.3時間 | 10.0時間 | 17.6日 | 約1635時間 |
建設業 | 164.4時間 | 13.7時間 | 20.1日 | 約1972時間 |
全業界と比較すると、建設業では年間330時間以上も多く働いていることがわかります。
総労働時間も所定外労働時間も建設業のほうが多いですが、月間で比較すると残業時間の開きはほぼありません。
本調査ではアルバイトや事務員など、さまざまな働き方の労働者を含めているため、上記の結果になっていると考えられます。
つまり、建設業のなかでも、職種や働き方によって労働時間・残業時間に大きな差があるということです。
建設業のなかでも残業時間の差が大きい
国土交通省の「適切な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査(令和4年度)」では、建設工事事業者の残業に関して以下の調査結果を公表しています。
月間の平均残業時間が45時間を超えている就業者は、技術者が13%、技能者では5%。
直接的な作業を行わない施工管理者や現場監督のほうが、直接的な建設工事を行う労働者よりも残業時間が多いことがわかります。
また、特に完成工事高が50億円以上の建設企業では、平均残業時間45時間超えの技術者が35%を占めているのです。
技術者は、現場での業務以外にも、書類作成や発注会社との打ち合わせなど業務が多岐にわたるため、業務が長時間化しやすい傾向にあります。
完成工事高が50億円以上の企業では、プロジェクトの規模が大きく、複数業者との打ち合わせや職人の管理・配置、確認事項の多さなどから業務時間が長くなりやすいのです。
建設業における時間外労働の上限規制の概要
建設業では、2024年4月から労働基準法の改正が適用され、時間外労働の上限規制が法律で規定されました。
そもそも労働時間には、労働基準法で定められた上限があり、その上限を超える場合には、労働者と使用人の合意に基づく手続きをとる必要があります。
その手続きを36(ザブロク)協定と呼び、協定の締結と届出をしなければ労働時間の延長ができません。
労働基準法による労働時間の定めは、以下の通りです。
出典:建設業 時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚生労働省
さらに、36協定の締結と届出を行っていても、時間外労働の上限として、原則、月間45時間・年間360時間を超えることはできません。
企業は、法定労働時間を超過して従業員を働かせた場合には、罰則の対象となります。
繁忙期のような人手が必要な場合は、36協定のなかの特別条項に該当し、以下の内容まで上限が緩和されます。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2〜6ヵ月の平均時間が80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは、年6回まで
2024年4月からは、建設業界でも残業に対して厳しいルールを守る必要があり、多くの業者が対応に追われているのが実情です。
建設業の時間外労働に関しては、以下の記事も合わせて確認してみてください。
>>>建設業における36協定の現状とは?働き方改革を促進する方法も解説
>>>建設業の働き方改革とは?国土交通省のガイドラインをわかりやすく解説
建設業で残業が多くなる理由
建設業で残業時間が多くなる理由は、以下の3つです。
- 深刻な人手不足
- 労働時間の把握が困難
- 「工期」を軸に考える働き方
それぞれ詳しく解説します。
深刻な人手不足
建設業の残業時間が増えやすい理由の一つとして、深刻な人手不足が挙げられます。
人手不足の実情を把握するために、以下のハローワークが公表している有効求人倍率を確認してみてください。
順位 | 業種 | 有効求人倍率(令和6年2月時点) |
1 | 建設躯体工事 | 9.75倍 |
2 | 保安 | 7.16倍 |
3 | 建築・土木・測量技術者 | 7.09倍 |
4 | 土木 | 6.80倍 |
5 | 採掘 | 6.20倍 |
6 | 建設業(躯体工事を除く) | 5.42 |
7 | 機械整備・修理 | 4.67 |
8 | 電気工事 | 3.53 |
9 | 外勤事務 | 3.51 |
10 | 介護サービス | 3.46 |
1〜10位のうち、半分以上が建設業に関わる仕事であることがわかります。
なかでも建設業躯体工事では、有効求人倍率が約10倍で、数字からも人手不足が深刻であることがわかるでしょう。
また、以下のグラフは建設業界に従事する者の割合を年齢で表したものです。
出典:国土交通省|建設業における働き方改革 中部地方整備局 建政部
建設業に従事する29歳以下の割合はおよそ1割しかいません。
全産業と比較しても、圧倒的に建設業界の若手人材が少なく、今後引退していく55歳以上の割合が非常に多くなっています。
このように、建設業全体での人手不足や若手人材の少なさが、建設業において残業が多くなる原因と考えられます。
労働時間の把握が困難
労働時間を把握するのが難しい点も、残業の長時間化につながっています。
現場作業が主な職人や施工管理者は、以下のような仕事の特徴から労働時間の把握が困難です。
- 日によって現場が分散したり変わったり
- 1日に2箇所以上の現場を移動するケースもある
- 自宅から現場へ直行することがある
- 通勤も勤務時間に含まれる など
出退勤時に、日報の作成やチャットアプリでの連絡を導入して、勤怠管理を行っている企業も少なくありません。
しかし、出退勤を個人に任せることになり、報告を忘れるケースもあるので正確な労働時間の把握が難しいのが実情です。
「工期」を軸に考える働き方
建設業では、工期を軸にした働き方が一般的です。
発注者と受注者で話し合い工期を設定しますが、多少無茶をしてでも短い工期で終わらせようとする考えは少なくありません。
ただし、建設業は天候に左右される仕事であり、場合によっては数日間工事を中断するケースもあります。
つまり、想定されるトラブルや人員のことを考慮せずに工期設定をしてしまうと、「適切な工期」ではなく、現場作業員が無茶をするような工期になるのです。
作業員の所定休日や有給休暇の取得も曖昧になってしまい、時間外労働の長時間化につながります。
建設業で残業時間を月45時間以内に抑えるのは可能なのか?
働き方改革によって、2024年4月から建設業でも月間の残業時間を45時間以内に収める必要があります。
しかし、今まで他業界よりも残業が多かった建設業が、いきなり残業を減らせるのかと不安に感じている人も多いのではないでしょうか。
建設業界では当たり前とされてきた、4週4閉所や4週6閉所という働き方では残業時間を45時間以内に抑えるのは難しいと考えられます。
例えば、以下のように毎週土曜日を8時間勤務するとどうでしょう。
平日1日あたり、およそ30分しか残業時間を確保できません。
現場までの行き帰りの時間や、現場作業後の見回りや書類整理をする時間を考慮すると、現実的な数字とは言えないでしょう。
そのため、土曜日も休みにする完全週休2日制や業務効率の改善、適切な工期の設定など、業界全体での大改革が必要だと考えられます。
建設業の残業時間を削減する取り組み
建設業の残業時間を削減する取り組みとして、以下の3つが挙げられます。
- 週休2日制の導入
- マネジメント層の残業への意識改革
- 事務作業の業務効率改善
それぞれ詳しく解説します。
週休2日制の導入
前章で解説したように、建設業で残業時間を減らすには週休2日制の導入が必要です。
実施に日本建設業連合会と国土交通は、以下のような建設業界で週休2日制を推進する動きもみせています。
- 週休2日を実現させるための試行工事
- 直轄土木工事における適切な工期設定の指針
- 発注者自体が週休2日の交代制を取り入れる「発注者指定方式」の提案
国自体がさまざまな取り組みを実行し、週休2日制を拡大させようと動いているのです。
各企業においても、週休2日制を導入するためのアクションを検討する必要があるでしょう。
週休2日制の概要については、以下の記事も参考にしてみてください。
>>>いつから建設業の週休2日は義務化されるのか?週休2日に向けてやるべき5つのこと
マネジメント層の残業への意識改革
働き方改革を行うには、まずは経営幹部やマネジメント層の意識改革が必要です。
最終的に従業者を管理する立場の人が残業を減らす意識を持たないと、現場作業員の意識は変わりません。
2023年6月の調査内容ですが、クラウド録画サービスのセーフィー株式会社は、建設会社に務める管理職689名に対して、働き方改革の実態調査を行っています。
「建設業の24年問題をどの程度知っているか」という問いに対して、24年問題を把握していたのは、およそ半数でした。
さらに、全体の25%が24年問題に対して、何の対策も行っていないとのこと。
働き方改革がスタートする半年以上前の調査ですが、建設業の長時間労働への意識が低い人もまだまだいることがわかります。
残業への意識が変われば、残業を減らすためのアクションを考えたり、社員教育のやり方も変わったりします。
残業を減らすためには、経営層・マネジメント層からの意識改革が重要です。
事務作業の業務効率改善
残業時間を減らす方法として、事務作業の効率化も検討しましょう。
現場監督や施工管理者は、現場から事務所に戻ってから書類の作成や準備をしたり、各種データをまとめたりします。
このような事務作業をなるべく効率化することが、残業時間の削減につながります。
例えば、外注管理表はフォーマットを作成し、数項目入力するだけですぐに作成できるようにしておいたり、社員同士で工事日程を共有できるシステムを取り入れたり。
便利なデジタル技術を導入することで、業務効率の改善につながり、職員の負担軽減ができます。
なお、弊社クラフトバンクでは、事務作業の課題を払拭できる「クラフトバンクオフィス」を提供しております。
見積もりや日報、業務連絡、案件管理など、各業務ごとで異なるツールを使用して、業務効率が悪いと感じる方も多いのではないでしょうか?
以下のような特徴があるクラフトバンクオフィスを活用することで各業務を一元管理でき、事務作業の時間削減につながります。
- 会社ごとでフルカスタマイズ可能
- 安心のサポート付き
- 紐づけているデータを自動集計し、経営指標がわかる
業務改善で悩んでいる方は、以下のリンクからツールの導入を検討してみてください。
建設業における残業時間削減で考えられる影響
建設業において残業時間を削減することは、以下のようなメリットがあると考えられます。
- 働きやすさの向上
- 新たな人員の確保
残業が減ることで、退勤後の時間や休日の確保がしやすくなり、働きやすさの向上につながります。
建設業界への就職を視野に入れる工業高校生に対して、建設業振興基が「会社を選ぶ際に重要視する項目は?」という内容で実施したアンケート調査の結果が以下の通りです。
出典:建設業振興基金|建設企業が行う工業高校生の採用活動の取組事例集
学生の傾向としては、勤務時間や給料といった「労働条件」に関する項目を重要視していることがわかります。
つまり、労働時間や休みに力を入れる企業ほど、従業員から働きやすいと感じてもらえて、新規採用の確保のしやすさにもつながります。
今後の建設業界と自社の発展のためにも、残業時間の削減や週休2日制といった働き方改革にとり組む必要があるとわかるでしょう。
まとめ:建設業の残業時間削減は日々の業務改善から行おう
この記事では、建設業の残業時間について詳しく解説しました。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、建設業の労働時間は全産業と比較して、年間330時間以上も多いのが実情です。
2024年4月から適用開始された働き方改革では、残業時間の上限が設けられているため、今まで通りの働き方はできなくなります。
そのため、週休2日制の導入や残業時間削減のアクションを求められています。
残業時間削減のアクションとして、デジタル技術を積極的に導入するのがおすすめです
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