建退共(建設業退職金共済制度)の義務化はいつからなのか?加入するメリットも解説

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建退共(建設業退職金共済制度)は、建設業の事業主が退職金共済契約を結び、掛金を納付することで、労働者が退職金を受け取れる制度のことです。

この制度は中小企業退職金共済法に基づき、建設業労働者の福祉向上と雇用安定を目的に運営されています。

建設業者にとっては、あくまでも福利厚生の一環と考えて問題なく、建退共に加入する義務はありません。

しかし、建退共に入ることで得られるメリットも大きいため、2024年6月時点で、18万社以上が加入しています。

この記事では、

  • 建退共の義務化がいつからなのか
  • 建退共に加入するメリット
  • 建退共に関してよくある質問 など

を詳しく解説します。

建退共(建設業退職金共済制度)の義務化はいつからなのか?

2024年6月時点で、建退共への加入は義務化されていません。

しかし、建設キャリアアップシステム(CCUS)への加入は義務化されており、建設キャリアアップシステムに加入することで建退共の手続きを効率化できます。

建設キャリアアップシステムとは、日本の建設業に従事する技能労働者のキャリア形成とスキルアップを支援するためのシステムのことです。

国道交通省と一般社団法人 建設業振興基金が運営主体となり、2019年4月から本格的に導入が開始されたシステムです。

このシステムを通して、技能労働者の適正な評価と処遇改善を図り、建設業界全体の労働力の質を向上させることを目的としています。

建設キャリアアップシステムの義務化については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。

>>>建設キャリアアップシステムの義務化はいつから?導入しないことで起こりうる問題も解説

そもそも建退共 とは

建退共とは、建設業退職金共済制度の略で、建設業に従事する労働者が退職時に一定の退職金を受け取れる制度のことです。

建設事業者が勤労者退職金共済機構と共済契約を結び、掛金を事業主が全額負担することで、現場作業に従事する労働者に退職時の補償が付きます。

一般的な退職金制度とは異なり、業界を辞める際に退職金が発生するのが特徴です。

建設業従事者の福利厚生を向上させ、国として建設業における長期的な雇用安定を図ることを目的としています。

厚生労働省のサイトによると、2022年度末で建退共の加入は、会社が18万社・個人は約287万人という数字が出ています。

建退共の退職金を受け取った人は、年間約7万人いると発表されているのです。

建退共の導入状況や概要についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

>>>建設業の退職金はいくら?退職金の導入状況や建退共・中退共制度の概要も解説 

令和3年10月1日から制度の一部が変更

建退共の制度は、令和3年10月1日から以下のように制度が一部変更されています。

  • 掛金日額の改定
  • 予定運用利回りが引き下げられ、合わせて退職金額が改定
  • 共済証紙の図柄が変更

建退共の掛金日額は、310円から320円へと改定されています。

予定運用利回りも3.0%から1.3%に引き下げられており、令和3年10月1日以降の退職金額は以下の通りです。

掛金納付年数

退職金額

1年

24,192円

5年

161,280円

10年

893,559円

20年

1,933,479円

30年

3,038,919円

40年

4,268,007円

出典:建退共の制度が一部かわります。|建設業退職金共済事業本部

※証紙および退職金ポイント21日を1月として計算

また、掛金日額の変更にともなって、310円の証紙が廃止されるため、証紙の記載金額と絵柄が変わります。

なお、建退共の退職金は、個人の掛金納付実績(日数)や加入年月などによって異なります。

正確な退職金額が知りたい方は、建設業退職金共済事業本部の「退職金試算」を活用してみてください。

建退共に加入するメリット

建退共に加入するメリットは、以下の3つです。

  • 経営事項審査において有利に働く
  • 人材不足の解消につながりやすい
  • 掛金を損金扱いできる

掛金や手間がかかることから、退職金の加入を検討中の方も多くいるので、本章で解説するメリットを参考にしてみてください。

経営事項審査において有利に働く

建退共に加入することで、公共工事の受注の際に必要な経営事項審査で有利に働きます。

経営事項審査とは、公共工事を受注する際に必要な審査の一つで、企業の施工能力や資金力などを点数化する制度です。

審査で高評価を得るには、企業の社会的責任や労働環境の整備が重要視されています。

建退共に加入して掛金を支払っていることで、「社会性・そのほかの審査項目」において15点を加算されるのです。

「社会性・そのほかの審査項目」に関しては、工事の業種にかかわらず加点される分野ですので、15点の加点は非常に意味があると言えるでしょう。

このため、公共工事の入札において競争力が向上し、受注機会が増える可能性が高まります。

人材不足の解消につながりやすい

建退共への加入は、建設業界が直面している人材不足の問題を解消する手段としても有効です。

建設業界では、労働環境の厳しさや不安定な収入が原因で、若年層の労働者が不足しています。

しかし、建退共に加入することで、労働者にとって将来の退職金が確保され、安心して働ける環境が整います。

魅力的な福利厚生が整うことで、人材確保の促進や優秀な人材の流出の食い止めになり、定着率の向上にもつながるでしょう。

労働者が長期的に安心して働ける環境を提供することで、企業は安定した成長を遂げることが可能となります。

掛金を損金扱いできる

建退共の掛金は、全額が損金として計上できるため、企業にとって大きな税制上のメリットがあります。

また、建退共に加入することで、国や地方自治体からの助成金を受けることも可能です。

新たに加入した労働者に関して、掛金の一部の50日分を助成してもらえます。(※建設業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成|厚生労働省

節税効果と助成金の活用により、企業は効率的に財務管理を行え、経営の安定化を図れるでしょう。

建退共の加入条件

建退共の加入には、以下のような条件があります。

加入できる事業主

・建設業を営む全事業主
・専業や兼業、また建設業法の許可の有無にもかかわらず加入できる

対象となる労働者

国籍や働き方、職種を問わず、加入できる

参考:制度について|建設業退職金共済事業本部

加入できない労働者には、以下のような方が該当します。

  • 事業主や役員報酬を受けている方
  • 建設業に従事していても、本社の総務や経理などの事務社員
  • すでに、建設業退職金共済制度の被共済者となっている方
  • 中小企業退職金共済・清酒製造業退職金共済・ 林業退職金共済の被共済者となっている方

ただし、中退共・清退共・林退共制度の被共済者となっている方においても、これまで納められた掛金を引き継ぎ、建退共制度に移動することは可能です。

一人親方に関しては、一人親方の集まりである「任意組合」を作ることで、制度の適用を受けられます。

実際に建退共へ加入する際は、「建設業退職金共済本部」の公式サイトをご確認ください。

建退共に関してよくある質問

建退共に関してよくある質問は、以下の4つです。

  • 公共工事において建退共に未加入の場合はどうなるのか
  • 建退共に加入して退職金がもらえないことはあるのか
  • 事業者が加入したら全労働者が加入対象になるのか
  • 一人親方でも建退共に加入できるのか

それぞれ詳しく解説します。

公共工事において建退共に未加入の場合はどうなるのか

建退共への加入は義務ではないため、工事の受発注ができなくなるということはありません。

しかし、公共工事において、以下の点が工事の受発注に影響します。

  • 建退共の加入が経営事項審査の評価に影響する
  • 元請として公共工事を受注した際に、発注元から建退共証紙の必要枚数を問われる

つまり、公共工事においては、建退共の加入を前提としており、未加入の場合は、公共工事を受けられる可能性が下がると考えられます。

詳しくは、建設業退職金共済事業本部の「建退共制度の普及徹底について」をご確認ください。

建退共に加入して退職金がもらえないことはあるのか

建退共に加入していても、退職金を請求できないケースがあります。

退職金給付の前提条件として、掛金納付された日数の合計が21日を1月と換算し、12月以上必要です。

12月以下であれば、退職金の支給条件を満たしていません。

退職金の請求が可能になるのは、12月を超えて、さらに以下の請求事由を満たしたときです。

  • 独立して仕事をはじめた場合
  • 無職になった場合
  • 建設関係以外の事業主に雇われた場合
  • 建設関係の事業所の社員や職員になった場合
  • 怪我または病気で働けなくなった場合
  • 55歳を超えた場合
  • 本人が死亡した場合

詳しくは、建設業退職金共済事業本部の「退職金を請求するときは」をご確認ください。

事業者が加入したら全労働者が加入対象になるのか

事業者が建退共に加入した場合、基本的には全労働者が加入対象になります。

ただし、建退共の加入条件で、加入できない労働者に該当する方もいます。

また、事業主が加入しなければ、労働者だけで加入することもできません。

一人親方でも建退共に加入できるのか

一人親方でも建退共への加入は可能です。

一人親方が建退共に加入するには、一人親方たちの集まりである「任意組合」を作って認定を受ける必要があります。

また、組合が事業主とみなされ、一人親方はその組合に雇われる労働者と見なされることで、共済制度の適用を受けられます。

ただし、法人の代表者や役員報酬を受けている人は加入できません。

加入方法は以下の通りです。

  1. 一人親方たちで任意組合を作る
  2. 「任意組合認定申請書」に規約と業務方法書を添えて、都道府県支部に申請する
  3. 認定を受けた後、「共済契約申込書」と「共済手帳申込書」に認定書の写しを添えて都道府県支部に提出する
  4. 契約が成立すると、「共済契約者証」と「退職金共済手帳」が交付される

既存の任意組合に加入する場合も、都道府県支部に問い合わせて手続きする必要があります。

詳しくは、建設業退職金共済事業本部の「一人親方の加入」をご確認ください。

まとめ

2024年6月時点で、建退共の加入は義務ではありません。

ただし、建退共は福利厚生の一環として考えられ、加入することで人材不足の解消や労働者の働きやすさの改善が期待できます。

また、公共工事で評価される経営事項審査への加点もあるため、案件受注や売上拡大にも影響する施策と言えます。

建設業の人材不足や円安・物価高による利益の圧迫などが問題視されるなか、長期的に生き残るためにも建退共や建設キャリアアップシステムなどの国の施策導入を検討してみてはいかがでしょうか。