【建設業編】ヒヤリハットの重要性とは|事例とあわせて解説
目次
建設現場において、思わぬ事故や怪我は常に隣り合わせです。
「建設の仕事はこういうもの」
「事故や怪我は起こって当たり前」
そんな雰囲気が蔓延してしまっては、いつか取り返しのつかないことが起こるでしょう。
そこで重要なのが、建設現場におけるヒヤリハットの理解です。
そもそもヒヤリハットとは何なのか、本記事では以下の視点も踏まえて解説します。
- 建設業におけるヒヤリハットとは
- ヒヤリハットについて理解する重要性
- 建設業のヒヤリハット事例
ヒヤリハットへの理解は事故や怪我の防止につながるのはもちろん、事業所全体での安全意識を高めることにつながるので、ぜひ参考にしてください。
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、重大な事故や怪我につながる手前の出来事を指す言葉です。
「作業中に危うく怪我をしそうになった」
「仕事中に事故を起こすところだった」
このような「ヒヤッとした」「ハッとした」と感じた事例や経験をまとめ、再発防止に結びつける活動を「ヒヤリハット活動」と言います。
事故や怪我に関する出来事が仕事中に起こると、周囲から顰蹙(ひんしゅく)を買うのでは?と萎縮してしまうかもしれません。
しかし厚生労働省ではヒヤリハットについて、以下のように触れています。
ヒヤリハットは報告する側にとっても、報告を受ける側にとっても、あまり名誉なことではありません。 |
今回は建設業におけるヒヤリハットに関して解説しますが、どんな職業でも予想できない事故や怪我というものは起こり得ます。
特に建設業に関しては事故や怪我が起こりやすい職種とも考えられるため、厚生労働省のヒヤリハットに対する考え方を理解し、自身はもちろん同じ事業所で働く人材が安心感を持てるように配慮する必要があるでしょう。
建設業におけるヒヤリハット
建設業におけるヒヤリハットも、重大な事故や怪我にこそつながっていないものの、ヒヤッとしたりハッとしたりした事例を指します。
特に建設現場に関しては高所作業が多く、脚立や足場からの転落に関するヒヤリハットの事例があります。
工具の使用を誤って怪我をしたり、強風で飛ばされた資材が体にぶつかったりと、建設現場はあらゆるヒヤリハットが潜んでいるのです。
1:29:300の法則について
建設業におけるヒヤリハットを理解するには「1:29:300の法則」について知っておくことも大切です。
「1:29:300の法則」とは、アメリカの損害保険会社で安全技師を務めていたハインリッヒが発表した法則のことで、ハインリッヒの法則とも呼ばれています。
厚生労働省では「1:29:300の法則」を、以下のように定義しています。
「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。 |
情報引用:厚生労働省|職場のあんぜんサイト「ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」
上記においてのヒヤリハットは「300件」の部分に該当します。
このように、たとえ重大な事故や怪我が1件、軽傷が29回であっても、その背後には300件のヒヤリハットがあると考えられています。
したがって、いつどのようなタイミングで重大な事故もしくは軽傷につながる事例が発生するかはわからないのです。
ヒヤリハットの報告・改善サイクル
ヒヤリハットの段階で社内で事例として共有し、怪我や事故につながらないようにする姿勢は非常に重要です。
ヒヤリハットが発生した時点で事業所内での報告を行い、改善に努めるサイクルを作る必要があります。
そこで役立つのが「PDCAサイクル」です。
PDCAサイクルとは、以下4つを繰り返すことで、生産管理・品質管理を継続的に改善する手法を指します。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
このPDCAサイクルにヒヤリハットの報告と改善を当てはめてみましょう。
Plan(計画) | Do(実行) | Check(評価) | Action(改善) |
---|---|---|---|
ヒヤリハットの事例を報告書にまとめ、対策を考案する | 報告書の内容を参考に考案した防止策を実行する | 実行した防止策がどのような効果を発揮したか客観的な目線で評価する | 防止策の改善点を理解し、ブラッシュアップする |
ヒヤリハットが発生した際は、なるべく早めに報告書を作成し、今後の対策を考案すべきです。
考案した対策は、実行と改善を繰り返すことでより精度の高いものとなるため、PDCAサイクルにヒヤリハットを当てはめ、安全かつスムーズに作業ができる環境を構築しましょう。
建設現場で取り入れられる「新ヒヤリハット報告」とは
昨今、建設業労働災害防止協会が新たな災害防止対策として「新ヒヤリハット報告」というものを掲げました。
ヒヤリハットと聞くと事故や怪我に直結する出来事を指しますが、同データにおいては高ストレスや不眠といった、いわゆる「メンタルヘルス」の不調がヒヤリハットにつながるとしております。
人間関係など、あらゆる職業にて考えられるストレスの原因を重く捉え、建設現場での事故防止策として落とし込んでいるのが「新ヒヤリハット報告」なのです。
この「新ヒヤリハット報告」では、災害ゼロを目標に掲げているので、建設業を営むうえでの安全策として周知してみましょう。
詳細については以下を参考にしてください。
建設業労働災害防止協会|建災防方式「新ヒヤリハット報告」のすすめ
建設業でヒヤリハットについて理解する重要性
ヒヤリハットはその概念を理解し、発生段階で原因・状況を分析することで事故を未然に防止できるため、安全な事業運営において重要なのです。
建設業の現場には転落や転倒、重機による事故や感電など、さまざまな危険が潜んでいます。
ヒヤリハットについての理解を深めておくことで、事業所全体の危険予知能力が高まります。
またヒヤリハットへの理解を深めつつ、未然に防ぐための方法を把握しておくことも重要です。
ヒヤリハットを未然に防ぐ方法の例は、以下を参考にしてください。
- グループウェア導入による事例の記録・分析・共有
- 早急な報告
- 対策・改善案を具体的に考案する
- ヒヤリハットの報告における重要性・目的を浸透させる
- 危険予知トレーニングを事業所全体で実施する
- 整理・整頓・清掃・清潔・しつけ(5S)を徹底させる
- システムの導入などをを通じた作業環境の改善・構築を行う
これらの方法を実践し、事業所内でのヒヤリハット発生を防止しましょう。
【建設業編】ヒヤリハットの事例
ここでは、厚生労働省の発表した「見せます・出します「ヒヤリハット事例」~安全衛生活動への参加の見える化~」から、ヒヤリハットの事例をいくつか抜粋して紹介します。
同データには、ある建設業のヒヤリハットの事例と改善策が以下のように記載されていました。
<事例1>
ヒヤリハットの内容 | 改善策 |
---|---|
転石をダンプトラックに積込中、荷崩れを起こし、積み荷の転石が運転席側に落ちそうになった。 | 改善方法として、積み込み 位置を高くした。 |
<事例2>
ヒヤリハットの内容 | 改善策 |
---|---|
移動式クレーンで荷卸し作業中、アウトリガーが地面に数センチめり込んだ。 | 改善方法として、地盤を良く確認する。判断は、元請職員が行う。 |
情報引用:厚生労働省|見せます・出します「ヒヤリハット事例」~安全衛生活動への参加の見える化~「4.ヒヤリハット事例の紹介」
上記のヒヤリハットの内容や改善策の記載は、実際に報告書を作成する際の参考にもなるでしょう。
また同データでは、さまざまなヒヤリハットの事例が膨大に記載されていました。その一部を抜粋して紹介します。
転落・墜落 | 転倒 | 激突 | 飛来・落下 | 崩壊・倒壊 | 挟まれ・巻き込まれ | 感電・火災 | 有害物との接触 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ダンボール入り床材(1個15㎏)25個をトラックに積 み込んだあとシート掛け作業に入った。左側にシートを止め全面にシートを張り右側に荷とあおりの間を移動中足元がふらつき転倒しそうになった。 | 長尺の足場用鋼管を、 数十本まとめてつり上 げて搬送中に、荷が回 転しそうになったので、 介添えロープを引いたとき、ロープが抜け落 ちて転倒しそうになった。 | 事務所玄関の透明ガラ ス製ドアが開いていると錯覚し、通過しようとしてガラスに衝突した。幸いガラスは割れず、大けがにはならなかった が、顔面に打撲を負った。ガラスドアの顔の高さ付近に縦縞の模様を貼り付けて気付き易くした。 | 積載型移動式クレーンで鋼製の矢板3枚を荷降しして、玉掛用ワイヤーロープをフックから外して抜き取ろうとしていたところ、最上部の矢 板が反転して崩れた。 | 農業用導水管埋設工事現場で、溝の中で床な らし作業中、地山が崩壊したので、慌てて逃げ た。 | 工場構内で不要材を小 型チェーンソーで引き 割を担当。炎天下で汗 を拭くため首に巻いて いたタオルがたれ下が りチェーンソーに巻き込 まれそうになった。 | 配電盤の配線変え作業 のために、盤内の主電 源ブレーカーを切って作 業中に、ビスが落下したので取り出そうとしたら、 主電源スイッチの1次側 に腕が触れそうになっ てヒヤッとした。配電 盤の作業では電気室の 元電源を切ってから作 業するようにした。 | 電気ケーブル中継用の地下マンホール内に入り、底に滞留した泥等を排出する作業を行っていたところ、付近で作業していた別の業者のコンプレッサの排気が流れ込み、気分が悪くなった。 |
情報引用:厚生労働省|見せます・出します「ヒヤリハット事例」~安全衛生活動への参加の見える化~「(3)厚生労働省(職場のあんぜんサイト)の事例」
これらのヒヤリハットは、同じく建設業を行う以上決して他人事ではありません。ここで紹介した事例に対し「明日は我が身」と向き合い、発生を未然に防ぎましょう。
まとめ
建設業において、転倒や転落、激突や倒壊などにまつわるさまざまな「ヒヤリハット」があります。
ヒヤリハットについて理解を深め、発生を防止する考え方を事業所全体で有しておかないと、いつか重大な事故を引き起こすでしょう。
今回は、ヒヤリハットの概要や報告・改善の重要性、新たに考案された「新ヒヤリハット報告」について、事例も交えて解説しました。
より安全かつクリーンに建設業を営むうえで、参考になれば幸いです。