建設業におけるバリューチェーン|導入の流れや効果、注意点について解説

建設業におけるバリューチェーン|導入の流れや効果、注意点について解説のイメージ写真
目次

建設業界において、競争力を高めて事業を発展させるためには、バリューチェーンの理解と活用が重要です。バリューチェーンとは、企業の活動を付加価値の創造という観点から分析するフレームワークです。

本記事では、建設業におけるバリューチェーンについて、以下の視点から解説します。

  • 建設業におけるバリューチェーンの概要と活動領域
  • 建設業がバリューチェーンを導入する際のステップ
  • 建設業がバリューチェーンを成功させるためのポイント

今回紹介する内容が、バリューチェーンについて理解を深め、かつ自社の強みを最大限に活かしながら持続的な成長を実現するきっかけとなれば幸いです。

そもそも「バリューチェーン」とは

バリューチェーンとは、企業が行う一連の事業活動を「価値の流れ」として捉え、それぞれのプロセスが企業全体の価値にどのように貢献しているかを評価するためのフレームワークです。

企業の活動は原材料の調達から始まり、製造・販売・アフターサービスまで多岐にわたります。バリューチェーン分析を行うことで、これらの活動がどのように相互に関連し、最終的に企業全体の価値向上につながっているかを把握できます。

バリューチェーンの目的

バリューチェーン分析の目的は、企業の事業活動を機能ごとに分け、それぞれの活動がどのように相互作用し、全体としての価値向上に貢献しているか明確にすることです。具体的には、各プロセスで発生する課題や、どのような付加価値が生まれているかを把握し、事業戦略の改善に役立てることを目指します。

バリューチェーンを構成する要素

バリューチェーンは「主活動」と「支援活動」の2つに大別されます。

主活動とは、製品やサービスの開発から顧客への提供まで、直接的に関与する、以下の事業活動を指します。

  • 購買物流
  • 製造荷物流
  • 販売
  • マーケティング
  • サービス

一方、支援活動は主活動をサポートするもので、全般管理・人事管理・技術開発・調達などが該当します。

サプライチェーンとの違い

バリューチェーンとサプライチェーンは、着目する点が異なります。サプライチェーンは「供給連鎖」とも呼ばれ、製品やサービスが顧客に届くまでの流れに焦点を当てます。

一方、バリューチェーンは、これらの活動が企業全体の価値創造にどのように寄与しているかを分析し「価値の創出」に着目しているのが特徴です。

建設業におけるバリューチェーン

建設業におけるバリューチェーンとは、建築の流れでどのような価値が創造されているのかを分析するフレームワークのことです。土地の取得から建物の完成、その後の維持管理まで、顧客に最終的な建造物を提供するまでの一連の流れの中で創造される価値を分析します。

建設業の特徴として、多くの企業がバリューチェーンの異なる段階に特化して事業を行っている点が挙げられます。例えば、設計事務所は建物の企画・設計、ゼネコンは施工管理、下請け業者は実際の施工など、それぞれの専門性に応じて役割分担されているのが特徴です。

新規事業への参入を検討する際には、建設業のバリューチェーン全体を把握し、自社の強みを生かせる領域を見極めることが重要になります。そのうえで、各活動における課題やリスクを分析し、適切な戦略を立てる必要があるでしょう。

活動領域の分類

建設業のバリューチェーンは、大きく上流・中流・下流の3つの活動領域に分類されます。各領域には特徴的な活動が含まれており、互いに連携することで顧客価値の創造に貢献します。各領域の特徴と主な活動内容を詳しく見ていきましょう。

上流

上流工程では、顧客の要望を具体的な形にするための準備が行われます。顧客とのコミュニケーションを重視し、プロジェクトの基礎を築くことが求められるでしょう。

顧客の要望をヒアリングし、建設物の設計図を作成する企画・設計は、顧客のニーズを的確に捉え、機能性・安全性・デザイン性に優れた設計により、大きな付加価値を生み出すプロセスです。

また、建設に必要な許認可を取得する許認可取得は、法規制を遵守し、円滑に事業を進めるために必要不可欠な活動です。さらに、建設に必要な資材を調達する資材調達では、品質・価格・納期のバランスを考慮しながら、最適なサプライヤーを選定することが重要になります。

中流

中流工程は、実際に建設工事を進めていく段階です。高い技術力とプロジェクト管理能力が求められ、安全管理や環境への配慮も重要となります。

設計図に基づき、実際に建設工事を行う施工は、建設業の中核となる工程です。ここでは、高い技術力とプロジェクト管理能力が求められます。また、安全管理や環境への配慮も大切です。さらに施工段階において、設計図通りに工事が行われているか、品質基準を満たしているか検査する品質管理は、顧客の信頼を得るためにも厳格に行う必要があります。

下流

下流工程では、完成した建造物を顧客に引き渡し、その後のアフターサービスまでを行います。顧客満足度を高め、長期的な関係を築くことが重要です。

完成した建造物や土地を顧客に販売する販売・マーケティングでは、顧客ターゲットに合わせた効果的なマーケティング戦略が重視されます。顧客に対して、建設後のメンテナンスや修理などのアフターサービスを提供するアフターサービスは、長期的な顧客との関係を構築し、顧客満足度を高めるうえで重要な役割を担います。

建設業がバリューチェーンを導入する際のステップ

建設業がバリューチェーンを導入する際は、以下5つのステップで検討を進めることが重要です。

  1. 自社のバリューチェーンを洗い出す
  2. 各活動のコストを分析する
  3. 強みと弱みを分析する
  4. VRIO分析を行う
  5. 改善策を検討する

上記を通じて自社の活動を分析し、改善点を見出すことで、建設業者としての競争力を高められるでしょう。

1.自社のバリューチェーンを洗い出す

まずは、建設業としてどのような事業活動を行っているのか、機能別にすべて洗い出すことから始めます。顧客との最初の打ち合わせから設計・施工・アフターサービスまで、各プロセスを具体的に書き出していきましょう。顧客と直接関わる活動だけでなく、社内で行われる業務や、下請け業者とのやり取りなども含めるべきです。

2.各活動のコストを分析する

次に、洗い出した各活動にかかるコストを分析します。人件費・材料費・リース料など、項目ごとに費用を算出しましょう。なお、過去のプロジェクトデータを参照することで、より正確に分析できます。コストの内訳や比率を把握することで、無駄な支出や改善が必要な箇所が見えてくるでしょう。

3.強みと弱みを分析する

コスト分析の結果を踏まえ、各活動の強みと弱みを分析します。主に、顧客満足度への貢献度や付加価値の創出度合いが対象です。建設業においては、高品質な施工や工期厳守、安全管理などが付加価値となります。強みは伸ばし、弱みは改善する方針を立てることで、競争力向上につながるでしょう。

4.VRIO分析を行う

コスト分析で見えてきた強みについて、VRIO分析を行います。VRIO分析とは、以下4つの視点から強みを分析する手法です。

  • Value(価値):顧客にとって価値がある強みか
  • Rareness(希少性):市場において、差別化要因となりうるほど希少な強みか
  • Imitability(模倣可能性):競合他社が容易に強みを模倣できるか
  • Organization(組織):強みを活かせる組織体制は整っているか

独自の施工技術があれば、価値があり希少性も高いと言えるでしょう。しかし、模倣されやすければ長期的な強みにはなりません。VRIO分析により、持続的な競争優位性を築ける強みが明確になります。

5.改善策を検討する

これまでの分析結果をもとに、具体的な改善策を検討します。コスト削減・品質向上・業務効率化・顧客満足度向上などの目標を設定し、施策を立案しましょう。資材調達の見直しによるコスト削減や、IT化による業務効率化などが例として考えられます。改善策を実行し、定期的に効果を検証することで、バリューチェーン全体の最適化につながるでしょう。

建設業がバリューチェーンを成功させるには

建設業がバリューチェーンを導入する際は、業界の特性や事業環境を踏まえ、いくつかのポイントを押さえる必要があります。

  • 顧客を明確にする
  • 責任と権限を明確にする
  • 資金調達の計画を立てる
  • 建設業の強みを活かす
  • リスクを最小限に抑える
  • 市場調査を徹底する
  • バリューチェーン全体を最適化する
  • DX化を取り入れる

上記に留意しながらバリューチェーンを導入できれば、建設業としての新たな事業展開や企業価値を高める活動がスムーズになるでしょう。

顧客を明確にする

建設業が新たな事業展開を検討する際、誰に対してどのような価値を提供するのかを明確にすることが重要です。新しい事業を意識するあまり、建設業が本来持つ技術やノウハウと関連性の低い分野に進出してしまう可能性があるため、注意しましょう。顧客ターゲットを絞り込むことで、ニーズに合致した商品やサービスを開発しやすくなるだけでなく、効果的なマーケティング戦略を立案できます。

責任と権限を明確にする

バリューチェーン構築には、社内外のさまざまな関係者との連携が不可欠です。円滑な連携体制を構築するため、各部門や担当者の役割分担・責任範囲・権限を明確化しておく必要があります。

資金調達の計画を立てる

新規事業の立ち上げやバリューチェーンの構築には、多額の資金が必要となる場合があります。事業計画に基づいた資金調達の計画を策定し、自己資金だけでなく補助金や融資などを活用しましょう。

建設業の強みを活かす

バリューチェーンを導入する際は、建設業者としての強みを最大限に活かすことが重要です。土木工事の技術を活かした農地整備や、建築技術を応用した植物工場の設計・施工などが例に挙げられます。また、プロジェクトマネジメントのノウハウを活かし、大規模な農業生産施設の運営に携わるなど、建設業の強みと新規事業を結びつけるよう意識しましょう。

リスクを最小限に抑える

新規事業には、市場の不確実性や競合の出現など、さまざまなリスクが伴います。リスクを最小限に抑えるために、綿密な市場調査や事業計画の策定、リスクヘッジ対策などの実施が不可欠です。

市場調査を徹底する

バリューチェーン導入の成功には、綿密な市場調査も欠かせません。顧客ニーズ・競合状況・市場規模などを詳細に分析し、提供する商品やサービスの需要を正確に把握しましょう。アンケート調査やインタビューを実施し、潜在顧客の声を直接聞くことも有効です。また、先行事例の研究や専門家へのヒアリングを通じ、多角的な視点での市場分析も効果があるでしょう。

バリューチェーン全体を最適化する

バリューチェーンの各段階が個別に最適化されていても、全体として効率が悪ければ意味がありません。そのため、バリューチェーン全体を俯瞰し、最適化を図ることが重要です。調達から販売までの各プロセスの連携を強化し、情報共有システムを導入するなどして、全体の効率を高めましょう。

また、定期的に各段階の成果を評価し、改善点を見出すPDCAサイクルを回すことで、継続的な最適化が可能になります。

DX化を図る

バリューチェーンの強化には、デジタル技術の活用が不可欠です。IoTセンサーを用いた建設現場の管理やAIによる需要予測など、DX化は建設業におけるさまざまな場面で重視されます。また、クラウドシステムの導入により、関係者間の情報共有や遠隔地とのコミュニケーションが容易になります。

さらに、ビッグデータ分析を活用することで、顧客ニーズの把握や業務プロセスの改善にも役立てられるでしょう。

まとめ

建設業におけるバリューチェーンは、顧客に最高の価値を提供する企業へと成長するための基軸となります。本記事で解説した導入ステップや成功につながるポイントを参考に、自社の強みを活かしながら弱みを克服していける戦略を考案しましょう。顧客や自社運営、さらには業界全体にとってより良い価値を創造していくために、バリューチェーンの視点を積極的に経営に取り入れていくことが大切です。