建設業のリスクアセスメント|義務と実施方法について解説

目次
- 建設業におけるリスクアセスメントとは
- リスクアセスメントの定義と目的
- リスクアセスメントが建設業で義務化された背景
- リスクアセスメントの効果とメリット
- 労働災害の予防
- 効果的な安全対策
- 職場環境の改善
- 安全意識の向上
- 企業の信頼性向上
- 生産性向上
- コンプライアンス遵守
- 建設業におけるリスクアセスメント5つのステップ
- ステップ1:事前準備
- ステップ2:危険性や有害性の特定
- ステップ3:リスクの見積もり
- ステップ4:リスク低減措置の検討と実施
- ステップ5:リスクアセスメントの記録と見直し
- 建設業におけるリスクアセスメント実施事例
- 土木工事におけるリスクアセスメント事例
- アーク溶接作業におけるリスクアセスメント事例
- フォークリフト運搬作業におけるリスクアセスメント事例
- 建設業のリスクアセスメントに関するFAQ
- リスクアセスメントは誰が実施すべき?
- リスクアセスメントの頻度は?
- リスクアセスメントの結果はどうやって記録・保管する?
- リスクアセスメント実施に役立つツールやソフトは?
- まとめ
建設業におけるリスクアセスメントは、労働者の安全を確保するうえで欠かせない取り組みです。事故や災害の未然防止を図り、法規制を順守するためにも、重要性が高まり続けています。本記事では、建設現場でのリスクアセスメントに焦点を当て、以下のテーマについて説明します。
- リスクアセスメントの基本的な定義と目的
- 建設業界で義務化された経緯
- 実施によって得られる効果やメリット
- 実務で活用するための具体的な実施手順
さらに、リスクアセスメントの導入事例やよくある質問にも触れていますので、参考情報としてぜひお役立てください。
建設業におけるリスクアセスメントとは

ここでは、建設現場で求められるリスクアセスメントについて、定義や目的、そして義務化の背景に触れながら解説します。
リスクアセスメントの定義と目的
リスクアセスメントとは、職場に潜む潜在的な危険や有害な要因を洗い出し、リスクの度合いを評価したうえで対策を講じるプロセスを指します。建設現場においては、労働安全衛生法によって、事業者がリスクアセスメントに取り組むことが努力義務として定められています。
なお、建設業のリスクアセスメントは、作業環境のリスクを正確に把握し、深刻度を評価することで的確な安全対策を実施し、労働災害の発生を未然に防ぐことが目的です。
リスクアセスメントが建設業で義務化された背景
リスクアセスメントが建設業で義務化されるに至った背景には、従来の安全管理体制の限界がありました。以前は法令の遵守や安全教育が主な対策でしたが、法令だけではあらゆるリスクに対応するのが難しく、労働者の不安全行動を完全に排除することも容易ではありませんでした。
従来の体制による課題を克服するため、労働災害を効果的に防ぐ手段としてリスクアセスメントの導入が推奨されるようになったのです。そして、平成18年4月の労働安全衛生法改正により、事業者に対しリスクアセスメントの実施が努力義務として課されました。
その後、平成26年6月の法改正では、危険性の高い化学物質を扱うすべての事業者に対し、リスクアセスメントの実施が正式に義務化されています。
リスクアセスメントの効果とメリット

リスクアセスメントを実施する主なメリットには、以下が挙げられます。
- 労働災害の予防
- 効果的な安全対策
- 職場環境の改善
- 安全意識の向上
- 企業の信頼性向上
- 生産性向上
- コンプライアンス遵守
建設業におけるリスクアセスメントは、労働災害を防止し、安全な職場環境を築くための重要な取り組みです。ここで紹介するメリットを、自社の安全レベル向上に役立ててください。
労働災害の予防
リスクアセスメントの実施は、建設現場に潜む危険要因を事前に特定し、評価することにつながります。高所作業での転落リスクや重機使用時の接触事故など、具体的な危険性を把握できるでしょう。適切な対策を講じることで、労働災害の発生を未然に防止できます。結果として、作業員の安全を確保し、工事の円滑な進行にも貢献するでしょう。
効果的な安全対策
リスクの程度を正確に評価することで、より効果的な安全対策を重点的に実施できます。転落リスクが高い場所にはより強固な手すりを設置したり、安全帯の使用を徹底したりするなど、リスクの大きさに応じた対策を取れるでしょう。限られた予算や人員を効率的に活用し、最大限の安全性を確保することが可能となります。
職場環境の改善
リスクアセスメントを通じて、作業手順の見直しや安全設備の導入など、職場環境を改善できます。危険な作業を自動化したり、作業スペースを適切に確保したりすることで、より安全で快適な作業環境を構築可能です。作業効率の向上や労働者の疲労軽減にもつながり、長期的な視点で見ても大きなメリットとなります。
安全意識の向上
リスクアセスメントの実施プロセスに従業員を巻き込むことで、事業所全体の安全に対する意識向上を促進できます。例えば、危険箇所の洗い出しや対策の検討に参加することで、自らの作業環境のリスクを理解し、安全行動を自主的に取るようになるでしょう。結果、現場全体の安全文化が醸成され、事故防止に大きく貢献します。
企業の信頼性向上
リスクアセスメントを積極的に実施することで、企業の安全に対する高い意識を示すことが可能です。取引先や顧客からの信頼向上につながり、ビジネスチャンスの拡大にも寄与します。また、安全性の高い企業として評価されることで、優秀な人材の確保や社員の定着率向上にもつながります。
生産性向上
安全な職場環境は、労働者のモチベーション向上や作業効率の向上に直結します。具体的例としては、事故の心配がない環境で作業することで集中力が高まり、ミスや手戻りが減少することが挙げられます。また、安全対策によって作業動線が改善されるなど、作業の効率化にもつながるでしょう。さらに、工期の短縮や品質向上など、生産性の向上にもリスクアセスメントは貢献します。
コンプライアンス遵守
労働安全衛生法では、事業者にリスクアセスメントの実施が努力義務として定められています。確実に実施することで、法令遵守の姿勢を示せるでしょう。また、万が一事故が発生した際にも、リスクアセスメントの実施記録が適切な安全配慮義務の履行を証明する資料となります。
建設業におけるリスクアセスメント5つのステップ

建設現場でのリスクアセスメントは、以下5つの手順に従って進めるのが一般的です。
- 事前準備
- 危険性や有害性の特定
- リスクの見積もり
- リスク低減措置の検討と実施
- リスクアセスメントの記録と見直し
労働災害の防止や安全な作業環境の維持を実現するためには、ここで紹介する各手順を理解し、適切に実行することが求められます。
ステップ1:事前準備
リスクアセスメントを円滑に進めるためには、計画段階での準備が欠かせません。まず、経営トップが重要性を明確に示し、全社的な取り組みを促進する姿勢を示すことが必要です。次に、安全衛生担当者の選任と、実施手順をまとめたマニュアルの作成を行います。マニュアルにはリスクの特定方法や評価基準、実施する対策を具体的に記載し、現場の活動が効果的に進められるよう設計しましょう。
ステップ2:危険性や有害性の特定
各作業に潜む危険性や有害性を洗い出し、予期しない事態にも対応できるようにしましょう。過去の事故や機械の故障などを参考にし、発生するリスクを幅広く想定することが重要です。作業中のトラブルを未然に防ぐため、機械や設備の不具合、作業ミスが引き起こす影響を具体的に見積もりましょう。
ステップ3:リスクの見積もり
特定したリスクについて、発生の可能性と重大性を評価し、リスクの大きさを見積もります。3段階法や4段階法を活用して数値化することで、客観的な判断が可能になるでしょう。例えば3段階法では、怪我の深刻度と発生可能性をそれぞれ3段階で評価し、リスクの度合いとして表現する手法を取ります。
ステップ4:リスク低減措置の検討と実施
リスク評価に基づき、適切な低減策を考えましょう。リスク低減措置は、以下の4つの段階に分けられます。
- 本質的対策:危険源を取り除く対策(例:危険な作業の自動化)
- 工学的対策:機械による防護策の導入(例:インターロック装置の設置)
- 管理的対策:手順の見直しや教育訓練による対策(例:安全教育の実施)
- 保護具の使用:ヘルメットや安全帯の着用を徹底(例:保護手袋の使用)
上記を実施する際は、リスクの大きさや費用対効果を踏まえ、優先順位を設定しましょう。
ステップ5:リスクアセスメントの記録と見直し
最後に、リスクアセスメントの結果を記録し、定期的な見直しを行います。対策が有効に機能しているかを検証できるため、必要な改善を適宜実施するうえでの参考になるでしょう。なお、見直しの際は以下の点を確認してください。
- 評価は適切だったか
- 実施した対策は有効に機能しているか
- 新しい危険性は生じていないか
必要があれば内容を修正し、さらなる安全向上を目指します。改善を重ねることで、安全な職場環境を維持できるでしょう。
建設業におけるリスクアセスメント実施事例

リスクアセスメントは、具体的な作業内容や現場環境に合わせて実施することが重要です。 ここでは、建設業におけるリスクアセスメントの実施事例をいくつか紹介します。
土木工事におけるリスクアセスメント事例
土木工事は多くの危険を伴い、重機や車両との接触、高所作業からの転落、さらには土砂の崩壊リスクも考慮する必要があります。例えば掘削作業の場面では、次のような手順でリスクアセスメントを行います。
<作業の分割と詳細化>
- 掘削・積込・運搬など、各工程を細かく分けてリスクを明確にする
<危険源の洗い出し>
- 掘削作業:重機との接触・転倒、土砂崩壊や埋設物との接触など
- 積込作業:荷崩れ、重機との接触など
- 運搬作業:ダンプトラックの転倒、交通事故など
<リスクの評価>
- 重機の接触・転倒:発生確率「高」、影響度「大」
- 土砂崩壊:発生確率「中」、影響度「大」
- 埋設物との接触:発生確率「低」、影響度「中」
<リスク低減措置の策定>
- 重機の転倒防止:作業員への安全教育、重機の整備点検、誘導員の配置
- 土砂崩壊の予防:地盤調査、掘削方法の見直し、土留め壁の設置
- 埋設物との衝突回避:事前調査の実施、作業時の注意喚起
アーク溶接作業におけるリスクアセスメント事例
アーク溶接作業では、火傷や感電、有害物質の吸入など、多様なリスクが存在します。代表的なリスクと対応策は以下のとおりです。
<リスクの特定>
- 溶接中のヒューム吸入によるじん肺のリスク
- スパッタによる火災
- 地震などによるボンベの転倒
<リスクの評価と優先度の設定>
- じん肺:影響度「3」、発生確率「2」、リスク値「5」→優先度「Ⅳ」(迅速な対応が必要)
- 火災・爆発:影響度「3」、発生確率「3」、リスク値「6」→優先度「Ⅴ」(即時対応が必要)
- ボンベの転倒:影響度「2」、発生確率「3」、リスク値「5」→優先度「Ⅳ」(迅速な対応が必要)
<リスク低減措置の実施>
- じん肺防止:局所排気装置の設置、呼吸用保護具の着用指導
- 火災・爆発の防止:可燃物の除去、不燃シートの設置、火気使用区域の設定
- ボンベの転倒防止:チェーン固定、地震時の避難経路の確保
フォークリフト運搬作業におけるリスクアセスメント事例
フォークリフト運搬作業では、荷崩れや車両の転倒、人との接触などの事故が発生する可能性があります。主なリスクと対策は、以下を参考にしてください。
<代表的なリスク>
- 荷物の転落や崩壊
- フォークリフトの転倒
- 作業員との接触事故
<低減措置の実施例>
- 安定した積載方法の導入
- フォークリフトの速度制限を徹底
- 安全教育の実施
建設業のリスクアセスメントに関するFAQ

ここでは、建設業のリスクアセスメントに関するよくある質問に回答しています。
リスクアセスメントは誰が実施すべき?
リスクアセスメントの実施は、事業者の責任のもと進めるべきです。多くの場合、専門的な判断が求められるため、安全管理者や職長がリーダーシップを取り、現場の作業員も巻き込んだ取り組みが推奨されます。
日常の業務を通じて潜在的な危険要素を把握している従業員の意見を反映することで、より実効性の高いリスクアセスメントが期待できるでしょう。
なお、場合によっては、外部の労働安全コンサルタントに依頼することも効果的です。専門家の視点でリスクを洗い出し、具体的な改善策を提案してもらうことで、安全対策の質を高められます。
リスクアセスメントの頻度は?
一般的に推奨される頻度は、年1回程度です。
リスクアセスメントは、定期的な実施と状況に応じた見直しが求められます。新たな作業を開始する前に事前のリスク確認を行い、必要な安全措置を整えます。
また、作業内容に変更が加わった際には、新しいリスクを見逃さないためにアセスメントを再実施すべきです。さらに、労働災害が発生した場合は、原因分析と再発防止を目的とした見直しが欠かせません。
リスクアセスメントの結果はどうやって記録・保管する?
リスクアセスメントの結果に関するデータは、安全管理を継続的に改善するための重要な基盤であり、労働災害の防止策や原因解明にも役立ちます。記録は紙媒体、電子媒体のいずれでも可能ですが、データの改ざんを防ぐために適切な保管が不可欠です。特に電子媒体の場合、アクセス権限の設定など管理体制を徹底しなければなりません。
なお、リスクアセスメントの結果には、評価対象の作業や特定された危険要因、評価結果の詳細が含まれます。また、リスクを低減するための措置、実施日や担当者・確認者の情報も記録します。
リスクアセスメント実施に役立つツールやソフトは?
アセスメント業務を効率的に進めるためには、専門ツールやソフトの活用が効果的です。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、リスク評価を支援するための手順やツールが豊富に揃っています。
加えて、建設業界団体が提供する各ツールは、建設業特有のリスクに対応できるよう設計されています。さらに、市販されているリスクアセスメントソフトでは、リスク評価から改善策の提案までを一括して支援する機能が搭載されており、業務負担の軽減も可能です。
まとめ
本記事では、リスクアセスメントの定義や目的、効果や実施手順について解説しました。建設業におけるリスクアセスメントは、労働災害の予防と安全確保、さらに事業の安定した継続運営のために欠かせないプロセスです。
危険を未然に特定し、適切な対応策を講じることで、リスクアセスメントは労働災害の防止における有効な手段となります。また、リスクアセスメントの目的は、安全管理の強化にとどまりません。業務の効率化やコスト削減にも寄与するため、積極的に取り組むことで、より安全かつ安定した事業運営が実現します。
本記事で得た知識をもとに、自社の業務内容や作業環境に応じたリスクアセスメントを実施し、安心・安全な職場づくりを進めていきましょう。