建設業の専任技術者とは?役割や必要性、資格要件を解説

目次
建設業許可を取得し、事業を営むためには、営業所ごとに専任技術者を配置することが建設業法で義務付けられています。建設業の専任技術者とは、建設業許可を取得・維持するために必要な要件です。今回は、建設業の専任技術者について、以下の視点からまとめました。
- 建設業における専任技術者の役割と重要性
- 専任技術者に求められる要件
- 専任技術者と配置技術者の違い
また、最後にはFAQも設置しているので、建設業において重要な専任技術者について理解する際の参考情報として活用してください。
建設業における専任技術者の役割と重要性

ここでは、以下の視点から建設業における専任技術者の役割と重要性について解説します。
- 適正な請負契約の締結
- 工事の適正な施工の確保
- 営業所における技術的サポート
専任技術者は豊富な知識と経験を活かし、営業所の技術力向上に貢献するポジションです。建設業の健全な発展には、専任技術者の存在が不可欠といえるでしょう。
なお、建設業における専任技術者については、国土交通省の資料からも確認できます。
参考:国土交通省|営業所における専任の技術者の取扱いについて
適正な請負契約の締結
専任技術者は、顧客との契約において、技術的な観点から契約内容の妥当性を検証します。例えば、工事内容や工期、請負金額の視点で、技術的に実現可能かどうか判断します。
また、顧客との技術的な打ち合わせに参加し、要望や条件を正確に把握することで、顧客と建設会社の間で認識の齟齬が生じないようにするのも専任技術者の役割です。さらに、必要に応じて設計図面や仕様書の作成を支援し、より具体的かつ実現可能な契約内容となるよう調整する役割も担います。
工事の適正な施工の確保
専任技術者の役割には、契約締結後も工事が契約通りに進捗しているか管理することも含まれます。現場に出向くことこそ稀ですが、現場の監理技術者や主任技術者と連携し、工事の進捗状況や品質に関する報告を受け、問題があれば適切な指示を出します。
また、技術的な課題が発生した場合には、過去の経験や専門知識を活かして解決策を検討し、助言することで、円滑な工事の進行を支援するのも専任技術者の役割です。追加工事や変更工事の契約手続きにおける支援を通じ、予期せぬ事態に対応することも求められるでしょう。
営業所における技術的サポート
営業所全体の技術力向上に貢献することも、専任技術者の重要な役割です。若手技術者に対して専門知識や経験を伝承することによる、人材育成が例に挙げられます。
社内研修や勉強会などを企画・実施し、技術力の底上げを図ることで、組織全体の技術力向上を目指すのも専任技術者の業務です。また、建設業界の最新技術や法改正などの情報を収集し、社内に共有することで、常に最新の技術を習得できる環境を構築することも求められます。
専任技術者に求められる要件

専任技術者には、建設業法で定められた以下の要件を満たす必要があります。
- 資格要件
- 実務経験
- 常時勤務と専任
ここでは、専任技術者に求められる要件について解説します。
資格要件
専任技術者になるための基本的な要件は、建設業種ごとに定められた国家資格を保有していることです。例えば、土木一式工事であれば1級土木施工管理技士や2級土木施工管理技士、建築一式工事であれば1級建築施工管理技士や1級・2級建築士などが該当します。
これらの資格は、建設工事の施工に必要な専門知識や技能を証明するものであり、専任技術者としての役割を適切に果たすために必要不可欠です。
実務経験
国家資格を持っていない場合でも、一定の実務経験があれば専任技術者になれます。
一般建設業の場合、該当する建設業種で10年以上の実務経験が必要です。特定建設業では、一般建設業の要件を満たしたうえで、4,500万円以上の工事で2年以上の指導監督経験が求められます。
実務経験とは、建設工事の施工に直接関わる経験であり、営業や事務の経験は含まれません。実務経験の計算方法は発注者によって異なる場合があるため、注意が必要です。
常時勤務と専任
専任技術者は、営業所に常時勤務し、専任できることが求められます。具体的な条件としては、以下が挙げられます。
- 居住地と営業所が離れすぎていない
- 他の営業所や工事現場で専任の業務に就いていない
- アルバイトやパートタイムではなく正規雇用である
専任技術者には、営業所の業務に専念することが求められているため、他の業務との兼務は原則として認められていません。ただし、一定の条件下では、専任技術者が主任技術者を兼任できる場合があります。
専任技術者と配置技術者の違い

建設業には、さまざまな専門技術者が存在します。その中でも、専任技術者と配置技術者はしばしば混同されますが、それぞれの役割や業務内容、必要な要件には明確な違いがあります。
項目 | 専任技術者 | 配置技術者 |
勤務場所 | 営業所 | 工事現場 |
役割 | 営業活動のサポート(契約、見積等) | 工事現場の管理・監督 |
工事現場への出向 | 原則として不可 | 必須 |
兼任 | 原則として不可(一定条件下で主任技術者との兼任は可能) | 不可 |
両者の違いを正しく理解することは、企業が建設業の許可を取得し、継続的に維持するための基盤となります。また、適切な運用によって事業のスムーズな展開が可能になるでしょう。
勤務場所と役割の違い
専任技術者と配置技術者の大きな違いは、勤務する場所と担う役割にあります。
専任技術者は建設業許可を受けた企業の営業所に常駐し、営業活動を技術的に支援するポジションです。具体的な業務には、見積書の作成、契約内容の確認、顧客との打ち合わせなどが含まれます。請負契約の適正な締結と、その内容に基づいた工事が進むよう、営業所で技術面から業務を管理します。専任技術者が工事現場に出向くことは、基本的にありません。
一方、配置技術者は工事現場に常駐し、施工の管理と監督を行います。配置技術者には監理技術者と主任技術者の2種類があり、それぞれが施工計画の作成、工程・品質・安全管理などを担当します。
専任技術者に関するFAQ
ここでは、建設業の専任技術者に関する以下の質問について回答します。
- 専任技術者が不在になった場合は?
- 専任技術者は出向社員でも可能?
- 専任技術者と主任技術者は兼任できる?
建設業における専任技術者の理解度を高めるうえでの参考情報として、お役立てください。
専任技術者が不在になった場合は?
専任技術者の不在は、建設業許可の取り消しにつながる可能性があります。建設業許可の要件の一つである専任技術者が退職や異動で不在となった場合、速やかに後任を配置しなければなりません。
たとえ一時的な不在でも、許可取り消しの対象となる可能性があるため注意が必要です。後任が決まるまでの期間も、許可要件を満たさない状態とみなされる可能性があります。
そのため、専任技術者の交代は計画的に行い、空白期間を作らないようにすることが重要です。
専任技術者は出向社員でも可能?
結論として、出向社員を専任技術者として配置することは可能です。ただし、常時勤務と専任の要件を満たしていることが条件となります。
また、出向元企業と出向先企業の間で、専任技術者としての業務内容や責任を明確に定める必要があります。出向社員を専任技術者とする場合、出向に関する契約書や覚書などの書類を整備し、監督官庁の求めに応じて提示できるようにしておくことが望ましいでしょう。
専任技術者と主任技術者は兼任できる?
原則として、専任技術者と主任技術者の兼任はできません。専任技術者は営業所の専任、主任技術者は工事現場の専任であるためです。しかし、以下の3つの条件をすべて満たす場合 に限り、例外的に専任技術者と主任技術者を兼任できます。
- 専任技術者が所属する営業所で契約締結した建設工事である
- 専任技術者が勤務する営業所と工事現場が近接している
- 専任技術者が所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあり、営業所と常時連絡が取れる状態である
上記の条件は、専任技術者が営業所の業務を行いながら、工事現場の監督責任も果たせる場合にのみ認められます。
まとめ
建設業の専任技術者は、各営業所に必ず配置される重要なポジションです。請負契約の適正な締結を支え、工事が適切に進行するよう管理するほか、営業所での技術的支援も担当します。任命には、特定の国家資格や一定の実務経験が必要であり、営業所に常時勤務し専任で従事することが条件です。
一方、配置技術者は主に工事現場で活動し、勤務場所や役割は専任技術者とは異なります。専任技術者が不在となった際の対応や、出向社員の配置、主任技術者との兼任の可否についても法令上の確認が必要です。
今回紹介した内容を正確に理解することで、事業を円滑かつ法令に沿った形で運営できるようになるでしょう。