建設業のM&Aとは?目的や成功のポイントについて解説
目次
建設業界は、少子高齢化や人手不足、技術革新といった多くの課題に直面しています。多くの課題がある中で成長戦略として注目されているのが、企業の合併や買収をする「M&A」です。ただし、建設業のM&Aには、他業界とは異なる独自の課題やリスクが伴います。
本記事では、建設業におけるM&Aについて、以下の視点から解説します。
- 建設業におけるM&Aの現状と必要性
- 建設業M&Aのメリット・デメリット
- 建設業M&Aに関する注意点
- 建設業M&Aの進め方
M&Aを活用し、どのように事業の拡大や競争力を高めていくか、重要なポイントを探っていきましょう。
建設業におけるM&Aの現状と必要性
ここでは、建設業におけるM&Aについて、以下の視点から解説します。
- 建設業界を取り巻く現状と課題
- なぜ建設業でM&Aが注目されているのか
日本の建設業界は少子高齢化や収益悪化など、さまざまな課題に直面しており、解決策としてM&Aが注目されています。M&Aは企業にとって成長戦略であると同時に、業界全体を活性化する可能性も秘めているのです。
建設業界を取り巻く現状と課題
建設業界におけるM&Aは、業界が抱える課題解決と成長戦略の両面で注目を集めています。建設業のM&A件数は、人手不足や後継者問題、収益性の悪化といった業界特有の課題があることから年々増加傾向にあります。M&Aは、建設業界における課題問題を解決し、企業の競争力を高める有効な手段として認識されているのです。
なぜ建設業でM&Aが注目されているのか
建設業界でM&Aが注目される理由は、前述の課題解決に加え、成長戦略としての有効性にあります。M&Aを通じて、即戦力となる人材や有資格者を一度に獲得できるため、人手不足の解消につながります。
また、後継者問題を抱える企業にとっては、M&Aが事業継続の選択肢となるでしょう。さらに、新たな地域や事業領域への進出、企業間のシナジー効果創出、規模の経済によるコスト削減などのメリットも期待できます。
建設業M&Aのメリット
建設業界におけるM&Aは、売り手と買い手の双方にメリットをもたらします。企業の成長や発展、事業承継など、さまざまな課題解決につながる可能性があると言えるでしょう。
売り手側のメリット
建設会社を売却する側のメリットとして、経営上の課題解決や、経営者の将来設計に関連したものが挙げられます。
例えば、後継者不足に悩む企業にとって、M&Aは事業の継続と雇用維持を両立できる有効な手段です。また、経営不振に陥った企業にとっては、倒産や廃業を回避し、従業員を守るための選択肢となりえます。
加えて、会社や事業を売却することで得られる資金を、老後資金や新たな事業への投資に充てることも可能です。
買い手側のメリット
建設会社を買収する側のメリットは、事業拡大や競争力強化に直結するものが多く見られます。
深刻化する建設業界の人材不足に対して、M&Aは即戦力となる人材や有資格者を確保できる有効な手段となります。さらに、買収対象企業が長年かけて培ってきた技術やノウハウを短期間で獲得することも可能です。
また、M&Aによって新たな地域に進出したり、事業領域を拡大したりすることで、迅速な事業成長を図れるでしょう。企業同士の強みを組み合わせることで、単独では実現できないシナジー効果を生み出すことも期待できます。
建設業M&Aのデメリット
建設業におけるM&Aは、企業の成長や事業承継の有効な手段となりえますが、いくつかの潜在的なデメリットも存在します。M&Aを成功に導くためには、デメリットを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要になるでしょう。
買い手側のデメリット
建設会社を買収する側にとってのデメリットとなるのが、買収価格の高さと統合プロセスにおける課題です。
建設会社は従業員や重機などの資産規模が大きく、買収価格が高額になりやすい傾向にあります。特に業績が好調な企業や、有資格者を多く抱える企業は、高値で取引される可能性も考慮しなければなりません。
また、企業文化や経営方針の違いから、統合プロセスがスムーズに進まないケースも多いでしょう。従業員のモチベーション低下や離職、顧客離れといったリスクにも備える必要があります。
売り手側のデメリット
売却側にとっては、経営権の喪失や従業員の雇用維持、企業文化の維持などがデメリットとして挙げられます。
株式譲渡を選択した場合、経営権は買い手に移ることになります。また、M&A後の雇用条件の変更や人員整理の可能性もあり、従業員の不安を解消するための丁寧な説明が不可欠です。
さらに、買収先の企業文化と相容れない場合は、従業員のモチベーション低下や離職につながる可能性も考慮しなければなりません。長年かけて築き上げてきた企業文化をどのように維持していくかが、重要なポイントとなるでしょう。
M&Aに伴うリスクや注意点
建設業におけるM&Aは、人材不足の解消や事業拡大といった大きなメリットをもたらします。しかし一方で、企業にとって大きな損失を招く可能性があるリスクや注意点が存在します。
M&Aに伴うリスクや注意点を事前に十分に分析し、適切な対策を講じることで、成功率を高められるでしょう。専門家の協力を得て、各分野のリスクを網羅的に検討することも不可欠です。
M&Aで人材を確保する戦略とリスク
M&Aを通じて人材を確保する戦略は、建設業の人手不足を解消する有効な手段です。しかし、年齢構成やスキルレベル、ノウハウの有無を事前に精査する必要があります。
例えば、定年が近い従業員が多い企業を買収すると、短期間で再び人材不足に陥る可能性があります。また、資格や専門知識が不足している人材が多い場合、教育に時間とコストがかかり、即戦力として期待できないことも考えられるでしょう。
したがって、M&Aによる人材確保を成功させるためには、これらのリスクを十分に考慮した戦略立案が重要です。
M&Aによる人材確保の方法
人材確保を目的としたM&Aの方法としては、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の二つがあります。
株式譲渡は、売り手企業の株式を取得して経営権を移転する方法で、全従業員をそのまま引き継げる利点があります。手続きが比較的簡単で、建設業許可の引き継ぎも不要です。しかし、簿外債務や不要な資産も引き継ぐリスクがあるため、注意しましょう。
一方、事業譲渡は事業の一部または全部を譲り受ける方法で、必要な人材だけを選んで引き継ぐことが可能です。多額の負債を抱える企業でもM&Aを進められるものの、建設業許可の再取得が必要になる場合があります。
人材確保におけるリスクと対策
人材確保におけるM&Aでは、いくつかのリスクが存在しますが、適切な対策を講じることで影響を最小限に抑えることが可能です。
企業文化や経営方針の違いによって従業員のモチベーションが低下し、離職につながるリスクを例に挙げてみましょう。モチベーション低下による離職のリスクに対しては、M&A後の統合プロセスを計画的に進め、従業員への丁寧な説明や公正な評価制度の導入で不安を解消することが有効です。
また、優秀な人材の流出を防ぐためには、明確なキャリアパスや魅力的な待遇を提示し、従業員が将来に希望を持てる環境を整える必要があります。
さらに、買収による経営方針の変化が周囲の評判に影響を与えるリスクもあるため、事前に関係者と十分なコミュニケーションを取ることが重要です。
建設業M&Aの進め方と相談先
M&Aは複雑なプロセスを経て実行されるため、適切な手順と専門家のサポートが不可欠です。ここでは、M&Aにおけるプロセスや手続きに加え、相談先となる専門家について解説します。
M&Aのプロセスと必要な手続き
M&Aのプロセスは、大きく分けて以下の6つの段階に分かれています。
- 準備段階
- 相手先探索
- 基本合意
- デューデリジェンス(対象企業・物件・資産の価値やリスクを調査すること)
- 最終契約
- クロージング
まず準備段階では、M&Aの目的や希望条件を明確にし、自社について分析します。次に、M&A仲介会社などを通じて相手先を探索し、候補企業との交渉を進めるのが一般的です。
基本的な条件で合意したら、基本合意契約を締結します。その後、デューデリジェンスを通じて相手企業の詳細を調査します。調査結果を踏まえた最終交渉の後、最終契約を締結します。最後に、株式譲渡や事業譲渡の手続きを終えれば、M&Aは完了です。
なお、建設業特有の手続きとして、建設業許可の引き継ぎがあります。株式譲渡の場合は許可をそのまま引き継げますが、事業譲渡の場合は事前許可申請が必要です。
M&Aを支援する専門家
M&Aを成功させるには、各分野の専門家による支援が欠かせません。主な専門家には、以下が挙げられます。
- M&A仲介会社:プロセス全体をサポートし、相手先探索から交渉まで幅広く支援する
- 金融機関:資金調達や財務アドバイスを提供する
- 税理士:M&Aに伴う税務処理をサポートする
- 弁護士:M&A契約書の作成や法務面での調査を担当する
- 公認会計士:財務面での調査を担当する
さまざまな専門家がチームを組んでM&Aをサポートすることで、リスクを最小限に抑えつつ、スムーズな進行を可能にします。各専門家の役割を理解し、適切なタイミングで助言を求めることが重要です。
建設業M&Aに強い相談先
建設業のM&Aは、業界特有の知識や経験が必要とされるため、以下に相談するのもおすすめです。
- 建設業M&Aに特化した仲介会社:業界動向や法規制などを踏まえたアドバイスを受けられる
- 商工会議所や業界団体:M&Aに関する情報提供やマッチングの機会を提供している
- 事業承継引継ぎ支援センター:事業承継に関する相談や支援を実施しており、M&Aについても相談可能
上記の相談先を有効活用することで、円滑かつ成功率の高いM&Aを実現できる可能性が高まるでしょう。
まとめ
本記事では、建設業におけるM&Aのメリット・デメリットや留意すべき点、手順について詳しく解説しました。
企業の成長を促進し、事業の拡大や人材の確保、技術の向上といった多様な課題に対処する手段として、M&Aは非常に有効です。ただし、M&Aには一定のリスクも伴うため、実行に際しては十分な調査と入念な準備が求められます。
M&Aの成功には、専門家の支援を活用しながら、計画的かつ慎重に手続きを進めることが不可欠です。
本記事が、建設業におけるM&Aに対する理解を深める助けとなれば幸いです。