建設業は保険加入が必須?主な種類や選び方、手続きについて

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建設業界は、工事現場での事故や労災、施工ミスなどのリスクが高い業界です。適切な保険に加入しておくことが、事業の安定的な運営には欠かせません。

しかし、建設業向けの保険は種類が多く、一つひとつの保険の役割や必要性を理解するのは簡単ではありません。また、自社のニーズに合った保険をどのように選ぶべきか判断が難しい面もあります。

本記事では、建設業が加入すべき保険について、以下の視点から解説します。

  • 建設業が加入すべき保険の種類
  • 建設業における保険の必要性
  • 保険未加入の建設業者について
  • 建設業の保険の選び方

本記事の内容を、建設業を営んでいくうえでの参考にしていただければ幸いです。

建設業が加入すべき保険の種類

ここでは、建設業が加入すべき保険を4つ紹介します。

  • 労働災害総合保険
  • 請負業者総合賠償責任保険
  • 工事保険
  • 組立保険

1つずつ見ていきましょう。

労働災害総合保険

労働災害総合保険は、従業員の業務上の災害に備える保険です。労働者災害補償保険法に基づく「労災保険」に上乗せして給付される保険で、労災保険のみでは補えない部分をカバーします。

なお、労働災害総合保険の主な補償内容は以下の通りです。

  • 入院や通院に伴う費用の実費
  • 休業による損失収入の一部補償
  • 障害による障害年金・障害一時金
  • 遺族への遺族年金・遺族一時金

労働災害総合保険に加入しておけば、従業員が被災した際の手厚い補償が受けられます。会社としてもリスク対策が十分に図れます。

請負業者総合賠償責任保険

請負業者総合賠償責任保険は、工事で発生した事故に係る損害賠償を補償する保険です。主に第三者に対する賠償責任をカバーします。

請負業者総合賠償責任保険の具体的な補償内容は、以下の通りです。

  • 工事現場で第三者にケガをさせた場合の治療費や休業損害
  • 工事中に第三者の物品を破損した場合の修理費や代替品費用
  • 工事後の施工不良により第三者に損害を与えた場合の修理費用

建設業では、工事中の事故だけでなく、施工ミスによる損害賠償リスクもあるため、この保険は非常に重要です。

工事保険

工事保険は、工事現場で発生した事故による自身の損害を補償する保険です。

工事保険の主な補償内容は、次の通りとなっています。

  • 資機材や仮設備の損害補償
  • 工事用仮設物の損害補償
  • 工事の暫定的休止・中断に伴う追加経費の補償
  • 人身事故による補償

現場で使う重機や資材、仮設物は高価なものがほとんどです。事故で損害を受けると膨大な修理費用や代替費用が発生するため、工事保険は必須と言えます。

組立保険

組立保険は、設備や機械の組立て作業中の事故による損害を補償する保険です。大型工場設備や生産ラインの建設では不可欠な保険と言えます。

組立保険の補償対象となる主な損害事例は、以下の通りです。

  • 組立て中の設備・機械の破損や落下事故
  • 組立作業員の人身事故
  • 検査時や試運転時の不具合による損害

組立作業は非常に危険が高いため、保険に入っておくことが不可欠です。自社負担リスクを最小限に抑えられます。

人身事故や損害事故を想定して、複数の保険に加入しておくことが建設業では重要です。保険料は経費ですが、無保険では被災時の損失が甚大になるリスクがあります。

建設業における保険の必要性

ここでは、建設業における保険加入の必要性を4つの視点から解説します。

  • 労働災害リスクが高いため
  • 施工ミスに伴う賠償リスクが存在するため
  • 現場での事故リスクが避けられないため
  • 設備組立作業には特殊なリスクがあるため

建設業には様々なリスクが潜んでおり、それらのリスクから経営を守るために保険への加入が不可欠です。保険に入っていないと、万が一の事故時に深刻な経営危機に陥る可能性があります。

労働災害リスクが高いため

建設業は、労働災害の発生リスクが非常に高い業界です。現場では重機や高所作業など、常に危険が伴います。さらに出入り業者が多数いる環境なので、他社の作業員が関与する災害も起こりえます。

実際に、建設業の労働災害による死亡者数は他の業種と比べて群を抜いて多くなっています。労働災害総合保険に入っておけば、従業員が被災した場合の手厚い補償を受けられるでしょう。

施工ミスに伴う賠償リスクが存在するため

建設業務には施工ミスのリスクが付きものです。ミスにより顧客や第三者に損害を与えた場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。賠償金額が高額になると、一企業では支払いが困難になります。

請負業者総合賠償責任保険に入っておけば、施工ミスによる賠償リスクをカバーできます。訴訟にまでなった場合の法的費用なども補償の対象となるため、リスク回避につながります。

現場での事故リスクが避けられないため

建設現場では、重機の転倒、資材の落下など、様々な事故が起こりうる環境です。人身事故のリスクはもちろん、資機材や仮設備が損壊する恐れもあります。

工事保険に加入しておけば、事故による自社の損害を補償してもらえます。特に高価な重機や仮設備の損害は、修理や代替調達に多額の費用がかかるため、確実な補償が必要不可欠です。

設備組立作業には特殊なリスクがあるため

工場設備や生産ラインなどを組み立てる作業は、建設業の中でも特に高いリスクを伴います。組立中の設備が落下したり、作業員が負傷したりする事故が起こりやすいためです。

組立保険に加入しておけば、高額な補償金を受け取れます。組立の途中で発生した事故の損害も確実に補償の対象となるため、安全対策が十分に行えます。

保険未加入の建設業者について

国土交通省のデータから、保険未加入の建設業者に関する問題がいくつかあることがわかります。ここでは「建設業における保険未加入問題に関するQ&A」のデータから、保険未加入の建設業者についての情報をまとめています。

Q.建設業における社会保険未加入問題とは何か

A.建設産業では、下請企業を中心に、関係法令により加入が義務付けられている年金、医療、雇用の各保険(社会保険等)について、企業としての未加入、労働者の未加入などにより、法定福利費を適正に負担しない保険未加入企業が多数存在しています。

社会保険等への未加入は、技能労働者の処遇の低下など就労環境を悪化させ、若年入職者が減少する一因となっています。そして、若年入職者の減少により、経験の積み重ねによって磨かれる技能を熟練者から若者へと承継することが困難となり、建設産業自体の持続的発展が妨げられることになります。

一方、法律を守らない保険未加入企業の存在によって、適正に法定福利費を負担し、人材育成を行っている真面目な企業ほどコスト高となり、競争上不利になるという矛盾した状況が生じています。

こうした状況が建設業における社会保険未加入問題であり、保険未加入企業の排除に向けた取組により、建設業の持続的な発展に必要な人材の確保を図るとともに、企業間の健全な競争環境を構築する必要があります。

Q.若者の入職が少ないのは保険未加入のせいか

A.建設業への入職については、他業種の企業等との比較による職業選択の結果とも考えられますが、専門工事業団体の調査によると、若年者が入職しない原因としては、労働条件・労働環境に関するものが多く挙げられており、社会保険等福利が未整備であることも約2割に上っています。

優秀な人材を確保できる魅力ある建設産業としていくためには、人材確保の面からも、就労労働環境の改善を図ることが重要な課題となっています。

就労環境の改善については、建設工事の原資を負担する施主、施主から直接建設工事を請け負って工事全体を管理する元請企業、技能労働者の相当数を使用する下請企業といった多様な主体が関係していることから、建設業界全体で対応していく必要があります。中でも、社会保険未加入問題については、建設業全体で取り組み、若年者が安心して入職できる産業にしていく必要があります。

Q.今後現場から社会保険未加入企業が排除されるのか

A.社会保険未加入問題への対策は、平成28年度までの目標期間5年間の中で、行政・業界が一体となって取り組むことにより、平成29年度には、企業単位では加入義務のある許可業者について加入率100%を、労働者単位では製造業相当の加入状況を目指そうとするものであり、今直ちに未加入業者の排除が求められているわけではありません。

しかしながら、これを目標に見据えつつ段階的に取り組みを進めるとしており、今後建設企業に対する周知啓発を行いつつ、許可行政庁による指導や、元請企業による施工体制台帳や再下請負通知書、作業員名簿を活用した加入指導が進められることになります。

そして、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、遅くとも平成29年度以降においては、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の全部又は一部について、適用除外でないにもかかわらず未加入である建設企業は、下請企業として選定しないとの取扱いとすべきであるとされています。

Q.元請企業に求められる保険未加入者の排除措置はどのようなものか

A.社会保険への加入を進め未加入者を排除するためには、元請企業においては、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」に沿って、下請企業の保険加入を確認・指導することが求められます。

具体的には、施工体制台帳(再下請負通知書を含む)や作業員名簿を用いて、下請企業やその労働者の保険加入状況を確認し、未加入の場合には加入するよう指導することになります。

協力会社組織がある場合には、将来的に保険未加入の協力会社とは契約しないことや、保険未加入の建設労働者の現場入場を認めないことを見据えつつ、協力会社を指導することも求められます。

なお、遅くとも平成29年度以降においては、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の全部又は一部について、適用除外でないにもかかわらず未加入である建設企業は、下請企業として選定しないとの取扱いとすべきであること、また、適切な保険に加入していることを確認できない作業員については、元請企業は特段の理由がない限り現場入場を認めないとの取扱いとすべきであることが同ガイドラインで求められており、これを見据えた対応も必要となります。

Q.社会保険未加入問題が解決すると、建設労働者、建設業はどう変わるか

A.社会保険未加入対策は、若年者にとって他産業と比べ見劣りしない就労環境を整備するとともに、法律上の義務を真面目に守って法定福利費を負担している企業が法律を守らずに法定福利費を負担しない企業よりも競争力が劣るという不公正な競争環境を是正するために進めているものです。

社会保険等への加入が徹底されると、建設労働者は、失業時や老後の無収入、病気や怪我といった暮らしの中の避けがたいリスクが保険によってカバーされるようになり、いざというときの安心をもって働けるようになります。

また、建設企業にとっても、求人の際社会保険完備と胸を張って若年者やその保護者、就職指導を行う教職員に説明できるようになり、有為な人材の確保につながることが期待されます。

合わせて、法律を守らず法定福利費を負担しないで受注しようとする不良不適格企業が排除されてダンピング受注が減少し、真面目に法律を守って法定福利費を負担する企業による平等かつ公正な競争環境につながることも期待されます。

このほか、保険適用の要否を左右する雇用か請負かの判断基準を具体化・適用することにより、企業の都合による一人親方化が抑止されるとともに、法定福利費の負担回避を目的とする請負関係がなくなり重層下請構造が是正されるといった副次的効果も期待されます。

Q.指導に従わずに保険未加入だとどうなるのか

A.保険未加入企業に対しては、地方整備局や都道府県の許可行政庁から、建設業の許可・更新の手続の際や経営事項審査の受審の際などに加入指導が行われますが、これに従わずに、なおも保険に加入しない場合は、許可行政庁から厚生労働省の保険担当部局に通報されることになります。

通報を受けた保険担当部局からは、その情報を基にその未加入企業に対して加入指導が行われ、それでもなお自主的な加入がない場合には、保険担当部局が職権で強制的に保険の加入手続を行います(強制加入)。

その際、事業の実態が以前からある場合には、新たに自主的に届け出る場合と違って、適用が最大過去2年遡って、過去2年分の保険料も請求されることになります。

情報引用:国土交通省|建設業における保険未加入問題に関するQ&A

建設業の保険はどう選ぶ?

ここでは、実際にどのような点に気をつけて建設業向けの保険を選べばよいのか、4つの視点から解説します。

  • 補償内容の充実度に注目する
  • 保険料の適正さを確認する
  • 対応の良さや実績も重視する
  • 専門家への相談も有効

ここで紹介するポイントを、建設業向けの保険を選ぶ際の参考情報として役立ててください。

補償内容の充実度に注目する

保険の補償内容が自社のニーズと合っているかどうかをよく確認する必要があります。補償内容が不十分だと、発生した損害を十分カバーできず、保険を付保した意味がなくなってしまいます。

例えば、労働災害総合保険の場合、単に労災保険と同等の補償内容では不十分で、上乗せの補償も含まれている必要があります。また請負業者総合賠償責任保険では、施工ミスに伴う賠償を広範にカバーできる保険を選ぶべきでしょう。

保険料の適正さを確認する

保険は経費となるため、過度に高額な保険料は避けたいところです。一方で、安すぎる保険は補償内容が不十分な可能性があります。そのため、保険料の適正さを見極めることが重要です

保険料の水準は業界の相場を確認し、自社の事業規模や請け負う工事内容を踏まえて判断するのがよいでしょう。高額すぎると経営を圧迫しますし、安すぎると十分な補償が受けられない恐れがあります。

保険会社によっても保険料は異なるため、同等の補償内容であれば、より安い保険会社を選ぶメリットがあります。一方で、知名度が低すぎる保険会社では、将来保険金が支払えなくなるリスクもあり注意が必要です。

対応の良さや実績も重視する

保険金の支払いを受けるまでの対応の良さや、保険会社の実績・安全性なども、保険選びの重要なポイントになります。

突発的な事故に遭った際、素早く対応してくれるかどうかが問題となります。過去にどのような対応があったかを確認し、保険金支払いまでのスピードやスムーズさを評価すべきです。

また、保険会社自体の実績や財務の健全性、知名度といった点も考慮が必要です。小規模で無名な保険会社だと、万が一倒産してしまった場合に保険金が受け取れなくなるリスクがあるためです。

専門家への相談も有効

保険は専門的な知識が必要となるため、自社だけで適切な判断を下すのは難しい面があります。保険の選定においては、専門のコンサルタントなどに相談するのが賢明でしょう。

保険ブローカーやリスクコンサルティング会社に相談すれば、建設業向けの保険に詳しい専門家からアドバイスを受けられます。自社のニーズに合った保険プランを一緒に検討してもらえます。

初期費用がかかりますが、適切な保険に入れるかどうかは経営にとって極めて重要です。専門家に相談料を払ってでも、本当に必要な保険に確実に加入することが賢明な選択肢と言えるでしょう。

まとめ

本記事では、建設業で加入が必須となる主な保険とその必要性、保険選びのポイントについて解説してきました。

建設業には、労災、賠償責任、現場事故、設備組立リスクなど、様々なリスクが存在します。これらのリスクから経営を守るためには、必要な保険への加入が不可欠です。

一方で、保険の種類は多岐にわたり、自社にとって本当に必要な保険を選ぶのは難しい面があります。補償内容の充実度、保険料の適正さ、保険会社の対応力や実績など、様々な観点から総合的に判断する必要があります。

保険への加入は経営判断の一つであるため、十分に検討することが大切です。専門家に相談するのも賢明な選択肢と言えます。万が一の事態に備え、適切な保険に確実に入っておくことが経営の安定化につながるはずです。