建設業に繁忙期がある理由|休日・体力に関する懸念や対策について
目次
建設業において、繁忙期による懸念点の把握は非常に重要です。そもそも繁忙期と閑散期がいつなのか、具体的に把握していない建設事業所もあるかもしれません。
本記事では、建設業の繁忙期について、以下の視点から解説します。
- 建設業の繁忙期と閑散期
- 建設業に繁忙期と閑散期がある理由
- 部門別の繁忙期の理由
- 繁忙期による懸念点
- 繁忙期の対策
本記事の情報を活用することで、労働環境の改善や生産性の向上につながり、より持続可能な事業運営が可能になります。
建設業の繁忙期は9月末や12〜3月末
建設業の繁忙期は、主に9月末と12月から3月末にかけての時期です。この時期に工事が集中する理由は、多くの企業の決算期と関係しています。
多くの企業が9月末や3月末に決算を迎えるため、決算前に工事を完了させたいという依頼が増加するのです。
また、公共建築物の設計や建設は、新年度の4月に合わせて完了することが多いため、3月末までの期間も繁忙期に含まれます。この時期は短納期で多くの工事をこなす必要があり、それに伴い建設業従事者の残業時間も増加する傾向にあります。
特に年度末の3月は、公共工事を含め多くの工事が完工時期を迎えることから、さまざまな作業が入り交じりやすいでしょう。そのため、労働災害防止を図る上で特別な配慮が求められる時期でもあります。
建設業の閑散期は4〜6月
建設業の閑散期は、一般的に4月から6月頃とされています。この時期は雨が多い季節で、屋外作業が制限されることが主な理由です。年末や年度末の繁忙期が終わり、新年度に入ってすぐの時期であることも影響しています。
多くの建設会社は、4月から6月の比較的落ち着いた時期に、新年度の計画立案や人材育成、設備のメンテナンスなどを行います。また、この時期は新規案件の営業活動に注力する企業も多いでしょう。
ただし、建設業の閑散期は地域や専門分野によって多少の違いがあることも覚えておきましょう。例えば、乾期である12月から3月を繁忙期とし、雨期である5月から7月を閑散期とする建設会社もあります。
企業によって繁忙期と閑散期の捉え方が異なる点に注意が必要です。
建設業に繁忙期と閑散期がある理由
建設業に繁忙期と閑散期が生じる理由には、気候や天候の影響が挙げられるでしょう。
夏場は暑さのため作業効率が落ちる一方、冬場は寒さや雪の影響で工事が進みにくくなります。また、梅雨時期は雨が多く、屋外作業が制限されます。
次に、年度末の工事集中も繁忙期・閑散期がある理由です。公共工事は年度末(3月)までの完工を目指すことが多く、年末から年度末にかけて工事が集中する傾向にあります。
民間工事も3月決算の企業が多いため、同様の傾向が見られます。
さらに、予算執行のサイクルも影響しているでしょう。公共工事は新年度(4月)から予算執行が始まるため、年度初めは計画策定や入札などの準備期間となり、実際の工事着工は遅れる傾向にあります。
これらの要因が複合的に作用し、建設業の繁忙期と閑散期が生まれているのです。
【部門別】繁忙期の理由
建設業の繁忙期は、部門別によってその理由が変動することもあります。ここでは、建設業における繁忙期の理由について、職人・営業・施工管理・設計の4つの部門別に解説します。
職人
職人の繁忙期は、主に業界全体の繁忙期に左右されます。具体的には、年度末や決算期前の9月末、12月から3月末にかけての時期が特に忙しくなります。この時期は工事の完了を目指す案件が集中するためです。
また、職人不足も繁忙の大きな要因となっています。建設業就業者の高齢化や熟練技能者の減少により、一人あたりの仕事量が増加しています。
さらに、建設需要が高まっているにもかかわらず、職人の数が追いついていないことも影響しているでしょう。
加えて、工期の短縮化も職人の忙しさを加速させる要因です。短い期間で集中的に作業を行う必要があるため、繁忙期には長時間労働や休日出勤が増える傾向にあります。
営業
建設業の営業部門が忙しくなる主な理由は、高いノルマと仕事の規模の大きさです。
まず、建築業界では他業種に比べてノルマが高く設定されることが多い傾向にあります。高い目標数値を達成するために、営業担当者は残業や休日の取引先イベント参加など、忙しい営業活動を余儀なくされるのです。
次に、建設業の仕事は規模が大きいことが特徴です。一つのプロジェクトの金額が大きいため、受注までの道のりが長くなります。
また、受注後も工事完了まで責任を負い続けなければならず、工期が延長された場合には顧客への説明に追われることもあるでしょう。
さらに、建設業の営業は早朝や深夜、休日であってもクレーム対応を求められることがあります。
このように、高いノルマと大規模プロジェクトの管理、そして24時間体制での対応が求められるため、営業部門は年間を通じて忙しい状況が続きやすいのです。
施工管理
施工管理が忙しくなる主な理由は、工事の不確実性と工期厳守の責任です。
まず、工事現場では予期せぬトラブルが頻繁に発生します。例えば、資材の未着や不足、人員不足、設計ミス、近隣からの苦情などが挙げられます。
これらのトラブルへの対応に多くの時間が取られ、時には計画の立て直しを強いられることもあるでしょう。
次に、施工管理者には工期内に工事を完了させる重大な責任があります。工期の延長はコストがかかるため、会社やクライアントが避けたい事案です。
しかし、先述のようにトラブルが発生しやすい現場では、工期は遅れがちになります。
そのため、施工管理者は工期内完了のプレッシャーの中、残業や休日出勤をして遅れを取り戻そうとします。1ヶ月以上休みなしで働くケースも珍しくありません。
このように、トラブル対応と工期厳守の責任が、施工管理部門の繁忙さを生み出しているのです。
設計
設計部門が繁忙になる最大の理由は、打ち合わせの多さです。繁忙期には図面作成の時間が取れないほど、さまざまな打ち合わせが入ります。
クライアントやメーカー、現場担当者との打ち合わせが、すべての図面作成過程で必要となり、それが何十回、何時間にも及ぶことがあります。
設計は、外観デザインを担当する意匠設計、土台や骨組みを担当する構造設計、インフラを設置する設備設計の3業種に分かれているのが特徴です。
業種間での打ち合わせも繰り返し行われるため、さらに忙しさが増します。
打ち合わせは通常の営業時間内に行われるため、図面作成作業は営業時間外の残業や休日に持ち越されることが少なくありません。
このように、多岐にわたる打ち合わせと、それに伴う時間外の図面作成作業が、設計部門の繁忙期の主な理由となっています。
建設業の繁忙期による懸念点
建設業の繁忙期は、業務の効率化や収益向上につながる一方で、さまざまな懸念点も存在します。主な問題として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 休日が少なくなる
- 体力面で辛さを感じる
- 人間関係に影響が出る
ここでは、建設業の繁忙期によって生じる3つの懸念点について詳しく解説します。
なお、上記の懸念点は、従業員の健康や仕事の質に直接影響を与える可能性があるため、適切な対策が必要になります。
休日が少なくなる
繁忙期には、休日が著しく減少することが大きな懸念点です。月に4日以下の休日しか取れないケースも珍しくありません。
これは、複数のプロジェクトが同時進行することや、天候による作業の遅れを取り戻す必要性が、休日数に影響を与える要因です。
また、年度末や決算期前などの繁忙期には、多くのプロジェクトが同時期に終了することも多く、休日返上でタスクをこなすことも少なくありません。
さらに、天候や気象条件が作業に影響を与えることもあります。悪天候による作業の遅れを取り戻すために、本来なら休日だった日に出勤することも多いでしょう。
このような状況が続くと、従業員の心身の疲労が蓄積し、長期的には生産性の低下や離職率の上昇につながる可能性があります。
体力面で辛さを感じる
業務量の増加と休日の減少により、従業員が体力面で大きな辛さを感じることも、繁忙期による懸念点です。
特に現場作業や施工管理に携わる従業員は、長時間労働や休日出勤が続くことで、極度の疲労を感じやすくなります。
例えば、施工管理者が複数の現場をかけ持ちする場合、各現場間の移動や打ち合わせなどで1日中動き回ることになります。これに加えて、緊急対応や突発的な問題解決のために深夜まで働くこともあるでしょう。
このような状況が続くと、睡眠時間が確保できず、慢性的な疲労状態に陥る可能性があります。
また、現場作業員も繁忙期には作業量が増加し、体力的な負担が大きくなります。高所作業や重量物の運搬など、体力を必要とする作業が続くことで、怪我や事故のリスクが高まることも懸念されるでしょう。
体力面での辛さは、作業効率の低下や品質の低下、さらには労働災害につながる可能性があるため、適切な休息と労働時間管理が重要です。
人間関係に影響が出る
繁忙期は業務の増加やストレスの蓄積により、職場の人間関係に悪影響が出ることも考えられるでしょう。
具体的には、コミュニケーション不足や感情的な対立、チームワークの低下などが挙げられます。これらの問題は、業務効率の低下や職場環境の悪化につながる可能性があります。
例えば、繁忙期には各自が自分の業務に追われ、同僚との会話や情報共有の時間が減少します。これにより、重要な情報が伝わらなかったり、誤解が生じたりすることがあるでしょう。
また、疲労やストレスが蓄積することで、些細なことでイライラしたり、感情的になったりしやすくなり、職場内での対立や摩擦が増える可能性があります。
特に施工管理者は、さまざまな立場の人々と調整する役割を担っているため、繁忙期には人間関係のトラブル解決に奔走することも多くなりがちです。
結果、本来の業務に支障が出たり、自身の精神的負担が増加したりします。
人間関係への影響を最小限に抑えるためには、定期的なコミュニケーションの機会を設けることや、ストレス管理の取り組みを行うことが重要です。
建設業の繁忙期対策
ここでは、建設業の繁忙期対策について、以下の視点から解説します。
- 事業所単位で実施できる対策
- 国による対策
建設業の繁忙期は、事業所単位で対策を取ることにより、懸念点の解消につながります。また、国による対策が、事業所の繁忙期対策につながることもあるでしょう。
事業所単位で実施できる対策
事業所単位で実施できる繁忙期対策には、主に3つの方法があります。これらの対策を適切に組み合わせることで、繁忙期の負担を軽減し、従業員の健康と生産性を維持することができます。
<適正な工期の設定>
多くの場合、繁忙期の長時間労働は不適切な工期設定に起因しています。
例えば、3ヶ月で完了できる工事に2ヶ月の期限を設定すると、必然的に残業が増えてしまいます。
このような状況を避けるために、工期設定支援システムを活用したり、発注におけるガイドラインを見直したりすることが有効です。
<人手不足解消の取り組み>
建設業界では労働者の高齢化や人手不足が深刻な問題となっています。
これに対処するため、労働時間に上限を設けたり、完全週休2日制を導入したりするなど、労働環境の改善を通じて業界の魅力を高める取り組みが重要です。
例えば、4週8休の導入により、従業員の健康維持とワークライフバランスの向上が期待できます。
<トラブルや工事遅延への対策と予防>
工期の適正化に伴い、発注者とのトラブルや工期遅延のリスクが高まる可能性があります。
発注者側への理解と協力の要請、建設業法の順守徹底、全国建設工事紛争審査会の活用などが対策として有効です。
トラブルや工事遅延への対策対策により、繁忙期のトラブルを未然に防ぎ、円滑な工事進行を実現できます。
国による対策
国による建設業の繁忙期対策は、業界全体の構造的な問題に取り組むものです。主に実施されている4つの対策は、事業所単位の取り組みを支援し、補完する役割を果たしています。
<長時間労働の是正>
建設業では週休2日制の導入が遅れているのが実情です。日本建設業連合会は長時間労働の是正対策として、現場の土日閉所を推進しています。
これらの取り組みにより、建設業界の休日増加と長時間労働の解消が期待されます。
<給与や社会保険の見直し>
建設業の労働者が長時間労働を選択する背景には、低賃金の問題があります。国は労働者の技量に見合った給与が得られるよう、評価制度の策定や能力の透明化を進めています。
また、社会保険未加入の下請け企業への発注を制限するなどの対策を通じ、労働者の待遇改善と社会保障の充実も図っているのです。
<生産性向上>
国土交通省が推進する「i-Construction」を通じたICTの全面的な活用は、生産性向上の施策として有効です。また、公共工事の積算基準改善や建設リカレント教育の支援も行っています。
これらの取り組みにより、建設業の生産性向上と技術継承が促進されると考えられるでしょう。
<重層下請構造の改善>
建設業の重層下請構造は、工期の厳しさや収入の減少につながる要因となっています。国は下請け数の制限など、この構造を改善するための取り組みを行っています。
これにより、工事の効率化や労働条件の改善が期待されるでしょう。
まとめ
建設業の繁忙期は、9月末や12月から3月末に集中し、業務量の増加や休日の減少など、さまざまな課題をもたらします。
繁忙期の問題に対しては、事業所単位での適正な工期設定や人手不足解消の取り組み、国による長時間労働の是正や生産性向上施策など、多角的な対策が講じられています。
今回紹介した対策を適切に実施することで、労働環境の改善や生産性の向上が期待できるでしょう。
ただし、建設業界の構造的な問題解決には時間がかかるため、継続的な取り組みが必要です。従業員の健康と安全を守りつつ、業界全体の発展を目指すことが重要になります。
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