業務フロー図で建設業の現場を改革!作成手順・注意点について解説
目次
建設業の現場では多くの業務が複雑に絡み合い、非効率な作業やミスが発生しやすい傾向にあります。現場で発生する課題を把握し、解決するための有効な手段が「業務フロー図」です。業務フロー図を用いることで、工程や担当者が可視化され、業務全体の流れを把握し、改善点を見出すための重要なツールとして活用できます。
本記事では、建設業における業務フロー図に関する以下の内容について解説します。
- 建設業における業務フロー図の重要性
- 業務フロー図で解決できる建設業の課題
- 建設業の業務フロー図作成手順
- 建設業における業務フロー図作成のポイント
業務フロー図の作成を通じて業務の可視化と円滑な進行を促すことで、生産性の向上やコスト削減、安全性の向上を実現できるでしょう。
建設業における業務フロー図とは
建設業における業務フロー図とは、建設プロジェクトにおける工程や作業、関係者を図形や矢印を用いて可視化したものです。誰が・いつ・どのような業務を行うのかを明確に示すことで、業務の進捗状況を把握しやすく、関係者間のコミュニケーションを円滑にする効果があります。
参考:厚生労働省|設計・施工管理技術者向け安全衛生教育支援事業~建設設計編~
建設業における業務フロー図の重要性
建設業は、設計・施工・監理など、多くの工程と関係者が複雑に連携して建造物を完成させていく複雑な産業です。そのため、業務プロセスを可視化し、関係者間で共有することは、業務の効率化や円滑な進行に欠かせません。
業務フロー図を作成することで、以下の効果が期待できます。
<業務の標準化>
- 工程や手順、責任範囲を明確化することで業務の標準化を促進する
- 品質のバラつきを抑えた安定した施工を実現できる
<業務効率化>
- 非効率な箇所や重複作業、ボトルネックを可視化することで、業務プロセス全体の効率化を図れる
- コスト削減や工期短縮にも貢献する
<コミュニケーションの円滑化>
- 関係者間で業務内容を共有することで、認識の齟齬やミスコミュニケーションを減らせる
- スムーズな連携体制を築き、円滑な業務遂行を促進できる
<リスクマネジメント>
- 工程ごとのリスクを洗い出し、対策を事前に検討できる
- 事故やトラブルの発生を抑制し、安全な作業環境を構築できる
<人材育成>
- 新人教育や業務引継ぎの際に業務フロー図を用いることで、経験の浅い作業員でも業務内容を理解しやすくなる
- スムーズな技術伝承も促進できる
建設業では、業務フロー図を介することで、現場の効率化や品質向上、安全確保や人材育成など、さまざまな課題解決が可能になります。
業務フロー図で解決できる建設業の課題
ここでは、建設業が業務フロー図を用いることで解決できる、以下の課題について解説します。
- コミュニケーション不足によるミス・手戻り
- 経験・知識の属人化による技術伝承の難しさ
- 安全管理と労働災害
建設業は、多くの関係者が関わる複雑なプロセスの中で、さまざまな課題に直面しています。業務フロー図は上記の課題を解決し、業務効率や安全性を向上させるための有効なツールとなるでしょう。
コミュニケーション不足によるミス・手戻り
建設業は、元請け企業や下請け企業、さらに孫請け企業と、多くの企業が関わる重層構造になっているのが特徴です。そのため、関係者間のコミュニケーション不足が発生しやすいという課題があります。
業務フロー図を作成することで、各工程における担当者・作業内容・必要な書類などを明確に定義できます。関係者間で情報を共有し、認識を統一することで、コミュニケーションミスや手戻りを減らし、円滑な業務遂行を促進することにつながるでしょう。
経験・知識の属人化による技術伝承の難しさ
建設業は、熟練工の経験や知識に頼る部分が多いため、属人化による技術伝承の難しさが課題になりがちです。高齢化による熟練工の減少が進むことも、若手作業員への円滑な技術伝承を滞らせる要因と言えるでしょう。
業務フロー図は、熟練工の持つノウハウを可視化・形式化することで、若手作業員への技術伝承を促進する効果も期待できます。各工程における作業手順や判断基準を明確に示すことで、経験の浅い作業員でも質の高い作業を行えるようになるでしょう。
安全管理と労働災害
建設業は単品移動型屋外産業という特性上、常に変化する作業環境の中で業務を行う必要があり、安全管理の徹底が求められます。自然災害や事故のリスクも高く、労働災害の発生率が高いことが課題です。
厚生労働省は、建設現場における労働災害防止対策の重要性を強調しており、関係者への安全衛生教育、KY活動(危険予知活動)、リスクアセスメントの実施などを推進しています。業務フロー図を活用することで、各工程における潜在的な危険を洗い出し、安全対策を具体的に示せるでしょう。
参考:厚生労働省|設計・施工管理技術者向け安全衛生教育支援事業~建設設計編~
建設業の業務フロー図作成手順
ここでは、建設業における業務フロー図の具体的な作成手順を紹介します。
- 目的を明確にする
- 関係者を洗い出す
- 業務プロセスを分解する
- 図形と記号を使って可視化する
- 作成した業務フロー図を共有・活用する
業務フロー図を作成することは、業務の効率化や問題点の発見、改善に役立ちます。作成手順を把握のうえで、関係者と情報を共有しながら進めていきましょう。
1.目的を明確にする
まずは、業務フロー図作成の目的を明確にしましょう。目的によって、作成する業務フロー図の内容や詳細度が変わるためです。
例えば、業務の標準化が目的なら、各工程の手順や責任範囲を明確化します。業務効率化が目的なら、非効率な箇所やボトルネックの可視化に重点を置きます。
目的を明確にすることで、より効果的な業務フロー図を作成できるでしょう。
2.関係者を洗い出す
業務フロー図に関係する、すべての関係者を洗い出しましょう。関係者には、社内関係者と社外関係者の2種類があります。
- 社内関係者:各工程の担当者や責任者、承認者など
- 社外関係者:発注者・設計事務所・コンサルタント・協力会社・資材業者など
関係者それぞれの役割や責任範囲を明確にすることで、業務フロー図がより正確なものになります。
3.業務プロセスを分解する
続いて、業務を構成する個々の作業やプロセスを洗い出し、時系列に沿って分解してください。業務プロセスを分解する際は、以下の3点を意識しましょう。
- 業務開始から終了までの流れを把握する
- 各工程におけるインプットとアウトプットを明確化する
- 各工程における担当者や必要な情報、使用するツールなどを特定する
複雑な業務は、より小さなサブプロセスに分割することで業務フロー図が見やすくなり、理解度が高まります。
4.図形と記号を使って可視化する
分解した業務プロセスを、図形と記号を使って可視化していきます。業務フロー図を作成する際に使用する図形と記号には、以下のようなものがあります。
開始/終了:業務の開始と終了を示す
- プロセス:業務における各作業や処理を表す
- 判断:条件分岐を表す
- 矢印:業務の流れの方向を示す
- 書類:書類や帳票の作成・提出などを表す
- データベース:データの入力・参照などを表す
図形や記号は、組織内で使用ルールを統一しておくことが重要です。
5.作成した業務フロー図を共有・活用する
作成した業務フロー図は関係者全員で共有し、積極的に活用していくことが重要です。業務マニュアルや手順書への添付、新人教育や業務引継ぎ資料としての活用、業務改善の検討材料としての活用など、活用方法はさまざまです。
業務内容の変化や改善点などを反映して常に最新の状態を保ち、業務効率化や品質向上に役立てましょう。
建設業における業務フロー図作成のポイント
業務フロー図は、単に作成するだけでは十分な効果を発揮しません。最大限に活用するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておくことが大切です。
- 適切な粒度で記述する
- 標準的な記号とルールを使う
- 見やすくレイアウトする
- 注釈や補足説明を加える
- 定期的に見直し・改善する
ここでは、建設業における業務フロー図作成のポイントについて解説しているので、自社での作成時にお役立てください。
適切な粒度で記述する
建設業の業務フロー図は、適切な粒度での作成が重要です。粒度が細かすぎると全体像が把握しづらくなり、粗すぎると必要な情報が不足します。
例えば、施工計画の立案過程を図示する場合は、現場調査・図面作成・工程表作成といった主要な工程に絞るのが効果的です。一方、品質管理の手順を示す際は、材料検査・寸法確認・強度試験など、より詳細な工程を含めることが求められます。
目的や対象者に応じて、適切な粒度を選択しましょう。
標準的な記号とルールを使う
業務フロー図の作成には、標準的な記号とルールの使用も欠かせません。建設業では、JIS規格に準拠した記号を用いることが一般的です。四角形は作業工程、菱形は判断、矢印は流れを表します。
また、組織内でのルール統一も重要です。施工段階を色分けしたり、サブコントラクターの作業を点線で囲んだりと、独自のルールを設定することで、より分かりやすいフロー図になります。
見やすくレイアウトする
建設業の複雑な業務プロセスを理解しやすくするため、フロー図のレイアウトにも注意が必要です。工事の進行に合わせて左から右へ、または上から下へと流れを設定すると、時系列での把握が容易になります。
また、関連する工程をグループ化したり、重要な判断ポイントを目立たせたりすることで、全体の流れが把握しやすくなるでしょう。さらに、フォントサイズや色使いにも配慮し、重要度に応じて強調するなど、視覚的な工夫も効果的です。
注釈や補足説明を加える
建設業の業務フロー図には、法規制や安全管理に関する重要な情報が含まれます。記載されている情報を適切に伝えるためには、注釈や補足説明の追加が有効です。各工程における法定検査のタイミングや、必要な資格保有者の配置などを注釈として記載しましょう。
また、特殊な工法や新技術を使用する場合は、概要や注意点を補足説明として加えるべきです。注釈や補足説明を加えることにより、フロー図だけでは伝えきれない詳細情報を効果的に共有できます。
定期的に見直し・改善する
業務フロー図は、一度作成したら終わりではありません。定期的な見直しと改善を実施し、常に最新の状態を保つようにしましょう。業務内容の変化や改善点などを適宜反映させることで、業務フロー図がより実用的なものになります。
見直しの頻度は、業務内容の変化の頻度やフロー図の重要度によって異なりますが、少なくとも年に一度は見直すことをおすすめします。見直しの際は、業務フロー図の内容が現状と一致しているか、非効率なプロセスやボトルネックはないか、改善点や追加すべき情報はないか確認すると良いでしょう。
まとめ
建設業界における業務フロー図は、業務の見える化や効率化に大きく貢献し、コミュニケーションの円滑化や人材育成にも役立つツールです。本記事で解説した手順やポイントを参考に自社の業務フロー図を作成することで、現場の課題解消や業務効率の向上、ひいては企業全体の競争力を高められるでしょう。
作成にあたっては、まず目的を明確にし、関係者との連携を大切にすることが不可欠です。さらに、定期的な見直しと改善を重ねることで、より効果的な業務フローを構築していくことが可能となります。