建設業の売上高とは?2つの計上基準や業界全体の推移データを紹介
目次
建設業の売上高は、完成工事高や完工高とも呼ばれます。
建設業は「建設業会計」という特殊な方式を採用しています。
建設業会計は一般会計と異なる点があるので、会計処理において注意が必要です。
この記事では、建設業の売上高や2つの計上基準を解説します。
建設業全体の推移データも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
建設業の売上高は「完成工事高」とも呼ばれる
一般的な業種では、売上によって得られた収益を「売上高」と表記します。
しかし、建設業では「完成工事高(かんせいこうじだか)」と呼ばれる場合が多いです。
完成工事高を省略して「完工高(かんこうだか)」と呼ぶこともあります。
建設業では「建設業会計」という特殊な会計方式を採用しています。
工事が完了して引き渡し時に発生する収益について、建設業会計では「完成工事高」という勘定科目を使用して計上するのです。
なお、建設業会計は一般会計をベースとしながら、他業種とは異なる勘定科目や基準を使用します。
建設業で建設業会計が採用されるのは、長期の工期に対応するためです。
建設業にて、着工から完成・引き渡しまでに1年以上かかる工事は珍しくありません。
そのような特徴を持つ建設業にて、一般会計の方式で仕訳すると「着工年に利益を計上できない」などの問題が発生します。
完成工事高と出来高との違い
建設業における出来高(できだか)とは、工事が完了した部分に対する支払い金額です。
建設業では、工事の仕上がり状況に応じて代金を支払う「出来高払い」という支払い方法も存在します。
完成工事高と出来高は、ほとんど同じ意味として捉えて問題ありません。
建設業会計と一般会計との違い
建設業会計と一般会計との主な違いは
- 一般会計とは異なる勘定科目を用いる
- 工事進行基準と工事完成基準の2つの基準がある
- 原価計算の方法が複雑になりやすい
上記3点です。
一般会計の売上高を建設業会計では完成工事高と呼ぶように、建設業は他業種とは異なる勘定科目を使用します。
参考として、建設業会計と一般会計の勘定科目における対応表を、以下にまとめました。
一般の勘定科目 | 建設業会計の勘定科目 |
---|---|
売上高 | 完成工事高 |
売上原価 | 完成工事原価 |
売上総損益(粗利益) | 完成工事総利益 |
仕掛品 | 未成工事支出金 |
売掛金 | 完成工事未収入金 |
前受金 | 未成工事受入金 |
買掛金 | 工事未払金 |
工事進行基準・工事完成基準という2つの基準を用いる点も、建設業会計における特徴の1つです。
また、一般会計の原価は「材料費・労務費・経費」の3つで構成されます。
一方で、建設業では上記3つに「外注費」を加えた4要素を原価とします。
一般会計よりも分類項目が増えることで、建設業では原価計算の方法が複雑になりやすいです。
建設業における売上高の計上基準
長期間の工事に対応するため、建設業の売上高には「工事進行基準」と「工事完成基準」の2つの計上基準があります。
売上高を正しく把握するために、それぞれの計上基準について解説していきます。
工事進行基準
工事進行基準とは、工事の進捗に応じて売上や経費を分散して計上する方式です。
工事が完了していなくても、当期の売上のみを工事完成高に計上できる点がメリットといえます。
加えて、その都度売上を計上するため「工事完成後になってから大幅な赤字が判明した」という事態を防げます。
このような特徴から、工事進行基準は大規模な工事との相性がよいです。
次の3要件をすべて満たす工事は「長期大規模工事」とみなされます。
- 工事着手日から引渡期日までが1年以上である
- 請負対価が10億円以上である
- 請負対価の2分の1以上が、引渡日から1年内に支払われる場合
注意点として、長期大規模工事では工事進行基準が強制的に適用されます。
参考URL:別紙 JV工事の場合の長期大規模工事の判定について
工事完成基準
工事が完了したタイミングで、費用をまとめて計上する方式を工事完成基準といいます。
売上高は工事終了まで計上されず、工事完成までに発生した費用は「未成工事支出金」として計上する点に注意しましょう。
工事完成基準は工事進行基準よりもシンプルな方法で、何度も費用を計上する手間がかかりません。
会計処理の手間を削減できるため、小規模な工事で採用されることが多いです。
建設業の売上高にまつわる基礎知識
建設業の売上高にまつわる基礎知識を2つ紹介します。
- 売上高と兼業売上高を分けて計上する
- 売上高は経営事項審査で重要な指標となる
1つずつ説明していきます。
売上高と兼業売上高を分けて計上する
建設業における損益計算書等の財務諸表では、売上高と兼業売上高を分けて計上しなければいけません。
建設業以外の業務で得た売上高を「兼業売上高」といいます。
そもそも、建設業と定められているのは、次の29種です。
- 土木一式工事業
- 建築一式工事業
- 大工工事業
- 左官工事業
- とび・土木工事業
- 石工事業
- 屋根工事業
- 電気工事業
- 管工事業
- タイル・れんが・ブロック工事業
- 鋼構造物工事業
- 鉄筋工事業
- 舗装工事業
- しゅんせつ工事業
- 板金工事業
- ガラス工事業
- 塗装工事業
- 防水工事業
- 内装仕上工事業
- 機械器具設置工事業
- 熱絶縁工事業
- 電気通信工事業
- 造園工事業
- さく井工事業
- 建具工事業
- 水道施設工事業
- 消防施設工事業
- 清掃施設工事業
- 解体工事業
上記29種以外の業務は「建設業でない」とみなされるため
- 除草や草刈り、伐採、剪定
- 道路清掃や浄化槽清掃、ボイラー洗浄
- 施設や設備などの保守・点検
- 調査や測量、設計
- 資材の運搬や販売
これらで得た売上は、兼業売上となります。
兼業売上高を分けずに書類を作成すると「虚偽の申請」と判断される恐れがあるので注意してください。
参考URL:業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方
売上高は経営事項審査で重要な指標となる
売上高は、経営事項審査で重要な指標となります。
経営事項審査とは、公共工事を国や自治体などから直接請け負う際に、建設業者が必ず受けなければならない審査です。
企業規模・経営状況の数値化を目的としており
- 経営状況
- 経営規模(売上高等)
- 技術力
- その他(社会性等)
上記4つが審査対象です。
そして、建設業の売上高は経営事項審査の25%を占めます。
経営事項審査に通過するには、売上高を上げる必要があるのです。
参考URL:経営事項審査の手引き
参考URL:経営事項審査について
建設業の売上高(完成工事高)以外の勘定科目一覧
建設業の売上高(完成工事高)以外の勘定科目は、以下のとおりです。
- 完成工事原価
- 完成工事総利益
- 未成工事支出金
- 完成工事未収入金
- 未成工事受入金
- 工事未払金
1つずつ内容を見ていきます。
完成工事原価
完成工事原価とは、完成工事高として計上される工事にかかった原価です。
「材料費・労務費・外注費・経費」の4つで構成されます。
完成工事原価は、一般会計でいう「売上原価」に該当します。
完成工事総利益
請け負った工事における粗利益は、完成工事総利益として計上しましょう。
具体的には、完成工事高から完成工事原価を差し引いて算出します。
【完成工事総利益の計算方法】
完成工事総利益=完成工事高-完成工事原価
完成工事総利益は一般会計の「売上総損益(粗利)」と同じ扱いです。
未成工事支出金
未成工事支出金は、未完成な工事にかかった費用を指します。
建設業では決算期間をまたぐ長期工事が発生するため、材料費や経費などの費用を工事が完了するまでに、一旦は未成工事支出金として計上するのです。
つまり、一般会計の「仕掛品」と同じ役割を果たします。
完成工事未収入金
完了した工事の請負代金のうち、まだ回収できていない費用は完成工事未収入金として処理します。
完成工事未収入金として計上するのは、次のようなケースです。
- 工事が完成した翌期に請負代金が振り込まれる
- 完成工事未収入金として計上した債権を回収した
完成工事未収入金は一般会計の「売掛金」にあたります。
未成工事受入金
未完成な工事の対価を先に受け取った場合、未成工事受入金として計上します。
建設工事では工期が長期間にわたったり、1件あたりの請負代金が大きくなったりします。
費用を回収できないリスクを軽減するため、工事完成前に対価を分割して受け取るケースは少なくありません。
なお、未成工事受入金は一般会計の「前受金」に該当します。
工事未払金
工事未払金は、工事が完了した段階で、未払いの費用を計上するために使用します。
材料費や外注費、労務費などを工事未払金として分類します。
一般会計の「買掛金」に相当する勘定科目です。
建設業全体の売上高推移データ
国土交通省が発表した「令和4年建設業活動実態調査の結果」を参考にしながら、建設業全体における売上高の推移を見ていきます。
国内における建設関連業の売上高は、次のとおりです。
売上高 | 前年比 | |
---|---|---|
公共 | 357億円 | 15.1% |
民間 | 2,247億円 | 101.8% |
合計 | 2,604億円 | 82.9% |
また、事業別国内売上高は以下のように推移しています。
参考URL:令和4年建設業活動実態調査の結果
上記より、令和4年度時点で国内全体の売上高は減少していますが、建設業に関しては売上高が上がっていることが読み取れます。
建設業の売上高を上げる方法
建設業の売上高を上げる方法は、主に3つあります。
- 若手人材を確保する
- 業務プロセスを見直す
- ITツールを導入する
建設業に携わる方は、ぜひ参考にしてみてください。
若手人材を確保する
人手が不足すると、作業員の負担や人件費の増加につながり、経営に悪影響を及ぼします。
特に、建設業の売上高を上げるには、若手人材の確保が欠かせません。
どの業界でも高齢化・人手不足が問題となっていますが、建設業は特に深刻な状態です。
建設業就業者数は、1997年の685万人をピークとして右肩下がりとなり、2023年はピーク時の70.5%である483万人にまで減少しています。
さらに、2023年における建設業就業者は、29歳以下が約12%で55歳以上が約36%となりました。
若手人材を獲得するには、現場環境の改善が効果的です。
具体的には
- 週休二日制を導入する
- 評価制度を見直す
- 教育体制を整える
- 勤務時間を適切に管理する
上記のような取り組みを進めると、他の建設業との差別化が図れるでしょう。
参考URL:4. 建設労働 | 建設業の現状
業務プロセスを見直す
業務プロセスを見直して効率化することが、売上高をアップさせるポイントです。
業務見直しの主な取り組みとしては、以下の4つが挙げられます。
- 業務マニュアルを作成する
- 不要な業務を見直す
- 業務を見える化する
- 業務分担を見直す
業務をマニュアル化すると、マニュアルを確認すれば誰でも同じ方法で作業を進められるため、品質が安定します。
マニュアルを活用すれば
- 作業Aは発生頻度が少ないので、作業が発生するたびにやり方を調べ直さなければいけない
- 新人育成で業務手順を1から説明するのは手間がかかる
- 担当者Aしか業務フローを知らないため、何度も担当者Aに質問しなければいけない
などの問題を解決できるでしょう。
業務の中には、本来の意義が失われた「形ばかりの作業」が存在する可能性があります。
不要な作業を省略し、重要な作業については必要性を再確認することで、安全かつ効率的な現場を形成できるのです。
ITツールを導入する
ITツールは建設業のさまざまな業務をサポートしてくれます。
たとえば、AI(人工知能)のデータ処理機能を応用すれば、資材管理や図面作成を自動化できます。
人が作業する限り、データの打ち間違い・見間違い・計算間違いなどのミスが発生する確率はゼロではありません。
一方で、ITツールは人為的なミスなく、正確に処理を行えます。
単純な業務を自動化し、作業員は重要な業務に集中できる点が、デジタル化を進めるメリットのひとつです。
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まとめ:建設業の売上高を計上する基準は2つある
今回の記事は、建設業の売上高や2つの計上基準、業界全体の推移データを紹介しました。
建設業の売上高は「工事進行基準」または「工事完成基準」を使用して計上します。
建設業の売上高を上げる方法は
- 若手人材を確保する
- 業務プロセスを見直す
- ITツールを導入する
上記3点です。
建設業でITツールを導入するならば、弊社クラフトバンクが提供するクラフトバンクオフィスがおすすめです。
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