建設業の常用契約は違法|労働者派遣法違反や2024年問題も解説

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目次

建設業で常用契約を結ぶ際は、企業と職人で雇用関係を結ぶ必要があり、個人事業主である一人親方と常用契約を結ぶのは、違法行為にあたります

また、偽装請負問題や労働者派遣法違反など、建設業者が職人を雇い仕事を依頼する上で理解しておかなければならない問題があります。

そこでこの記事では

  • 建設業における常用契約と請負契約の違い
  • 常用契約が違法になるケース
  • 偽装請負問題
  • 労働者派遣法違反

などを詳しく解説します。

常用契約と請負契約の違い

常用契約とは、会社に属する従業員のように、1日の働く時間や報酬が決まっている契約のことです。

例えば「1日あたり2万円で、勤務時間は8時〜17時まで」のように、条件が決まっており仕事の完成・未完成は問われません。

常用契約では、受け取るのは作業員への報酬のみで、材料費や運搬費などは発注元が負担します。

一方、請負契約とは、仕事内容と業務範囲、金額の提示があり、仕事を受けるかどうか自ら決める働き方のことです。

請負契約であれば、1日の勤務時間や仕事の進め方は個人の自由で、最終的に納期までに請け負った工事を終わらせれば問題ありません。

請負契約で受け取れる費用には、材料費や運搬費、機材使用料、職人の報酬が含まれます。

請負契約であれば働く時間は自由ですが、納期を考慮して自ら考えて仕事を進める必要があります。

仕事内容はあらかじめ決まっているため、業務外のことを依頼する際は新たに契約する必要がありますし、契約せずに無理にやらせるのは違法です。

建設業の常用契約(人工出し)で違法になるケースとは?

建設業における雇用契約には、常用契約と請負契約の2種類がありますが、職人の働き方によっては、常用契約が違法になるケースがあります。

本章では、以下の

  • 一人親方の常用契約は法律上NG
  • 世間的に問題視される偽装請負
  • 労働者派遣法違反への抵触

などを詳しく解説します。

一人親方の常用契約は法律上NG

建設業では、一人親方の常用契約は法律で禁止されています。

一人親方は個人事業主であり、特定の企業に属する従業員ではありません。

常用契約を結べるのは企業に属する従業員のみで、従業員であれば社会保険への加入も義務付けられています。

しかし、個人事業である一人親方は、自ら社会保険料を支払う必要があるため、常用契約を結ぶのはそもそも矛盾する行為なのです。

世間的に問題視される偽装請負

偽装請負とは、実際には従業員として常用契約を結んでいるのにもかかわらず、一人親方として請負契約を結んでいるかのように働かせる行為のことです。

前項で、「常用契約を結ぶと従業員になるため、社会保険料を支払う必要がある」と説明しました。

請負契約であれば、企業側が社会保険料を支払う必要がないため、社会保険料への加入を逃れるために、偽装請負が行われるのです。

また、請負契約の場合は、指揮命令権は作業員を雇用している会社にあります。つまり、元請業者や発注者は指示をしたらいけないのです。

請負偽装によって、労働者の雇用を不安定にさせ、労働災害が発生した際の責任の所在が不明確になってしまう点なども問題として挙げられます。

当然、国としても偽装請負を問題視しており、建設業界では働き方改革や環境整備を行うための対策も進められています。

労働者派遣法違反への抵触

偽装請負が問題視されていると解説しましたが、もしも偽装請負が発覚した場合は、労働者派遣法違反に抵触し刑事罰の対象となります。

従業員が請負契約を結ぶのも、一人親方が常用契約を結ぶのも、どちらも違法です。

また、自社の従業員や職人を他社の現場へ向かわせるのは、派遣に該当し、建設業において労働者派遣法違反として禁じられています。

万が一、労働者派遣法違反に抵触すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰則を受けます。

ただし、現場に派遣した従業員が指示を受けるのではなく、現場での指揮命令や裁量権をもって施工していれば、たとえ常用契約でも建設工事の請負とみなされるのです。

偽装請負に該当するかの判断基準は、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に記載があるので確認してみてください。

労働者派遣がNGの理由

建設業で労働者派遣が禁じられている理由には、労働者の保護が挙げられます。

建設の仕事は、発注者からの依頼を前提とする受注生産方式であり、発注がなければそもそも仕事もありません。

自社で商品を生産して販売するような、需要を見越して仕事をするわけではないので、職人にはその都度仕事を依頼する形になるのです。

つまり、建設業の現場で働く職人は毎月安定的に仕事を得られるわけではないため、非常に不安定な働き方といえます。

派遣労働者のような弱い立場の労働者では、仕事の状況によって簡単に雇用を打ち切られる可能性があるため、建設業では労働者の派遣が禁止されています。

労働者派遣法違反の事例

実際に労働者派遣法に抵触したとして、以下のように刑事告訴されているケースもいくつか見受けられます。

【秋田県の建設会社】

住宅補修工事のために雇用した作業員を、別の会社に派遣し、派遣先での仕事中に事故に遭い死亡。
出典:秋田労働局

【愛媛県の建設会社】

雇用先が作業員を別の会社に派遣し、造船所内において解体中の足場から転落し死亡。
出典:愛媛労働局

これらの事例のように、雇用先が自社の従業員を別会社に送り、別会社の指揮のもと業務にあたることは「労働者派遣」に該当します。しかし、いくら指揮命令や裁量権が自社にあっても、契約書面上でわからなければ、建設業許可申請の証明資料としては認められないでしょう。

建設業で派遣を行なうなら「就業機会確保事業」の許可を受ける

就業機会確保事業とは、建設業者が雇用する従業者において、一時的に余剰となった場合にほかの建設業者に派遣する制度のことです。

就業機会確保事業であれば、派遣先の会社が指揮命令をしても派遣業法違反にはなりません。

そのため、雇用主である会社・従業員・人手が足りない建設業者と3者にとってメリットがある制度なのです。

就業機会確保事業の許可を受けるには、以下の条件があります。

  1. 雇用側企業と受入先企業の双方が、同じ建設業の事業主団体の構成員であること
  2. 事業主団体が派遣に関する計画を作成し、厚生労働大臣の許可を受けること
  3. ⑵の計画で示した雇用側企業と受入先企業の組み合わせの範囲でしか、建設業務労働者の派遣ができない
  4. 目的は常用雇用労働者の一時的な余剰が生じた場合に、労働者の雇用の安定と維持を図るためであること

また、所有資産額や負債総額など、事業を的確に遂行するだけの能力があるかどうかも判断材料にされます。

詳しくは、厚生労働省の「建設業務労働者就業機会確保事業」をご覧ください。

建設業における労働者派遣OKの業務

建設業には労働者派遣法違反に抵触するため、職人を派遣のモデルで働かせられないとお伝えしました。

ただし、建設業のなかでも以下のような業務は労働者派遣が認められています。

  • 現場事務所の事務員
  • CADオペレーター
  • 施工管理技士(工程管理・品質管理・安全管理など) 

出典:東京労働局|建設現場で必要な労働者派遣法の知識

これらの仕事は、労働者派遣法に記される「建設・改造・保存・修理・変更・破壊もしくは解体の作業またはこれらの作業の準備作業」に該当しないため、派遣が可能です。

ただし、施工管理業務等で現場に派遣され、空き時間に資材置き場の整理や片付けをする行為は、労働者派遣法に記載される作業に該当するため禁止されています。

一人親方も関係する建設業界の2024年問題

建設業の雇用に関して、避けて通れないのが2024年問題です。

時間外労働への規制がされるため、一人親方も労働時間の上限内で仕事をする必要があります。

建設業のみならず、時間外労働が社会問題として取り上げられたことで、2019年から「時間外労働の上限規制」という法律が施行されています。

本法律により、月間・年間の残業時間や時間外労働の上限が決定されました。万が一、上限時間を超えて労働した場合には、会社が法律に違反したとして罰則の対象となります。

ただし、建設業界では長時間労働の常態化と人手不足の深刻化により、すぐに本法律を適用するのが困難でした。

そのため、5年間の猶予期間を経て2024年4月から本格的に法律が適用されるようになります。

このような準備期間や法律施行までの期間を総称して、2024年問題と言われています。

従業員を雇用する会社だけの問題ではなく、一人親方も働き方が変わるため、仕事のスピードや質を向上させる必要があるでしょう。

2024年問題のメリットとデメリット

2024年問題がもたらすメリットとデメリットは以下のとおりです。

【メリット】

  • 過労のリスクを減らせる
  • 作業中のケガや事故の防止につながる
  • 作業員の心身の健康を守れる

【デメリット】

  • 工程が今まで通り進まなくなる可能性がある
  • 納期に間に合わない可能性がある
  • 一人親方は、稼げる金額が減る可能性がある

このようにメリットだけではなくデメリットもあり、職人との雇用関係や作業工程などを見直す必要も出てくるでしょう。

まとめ:一人親方との常用契約や偽装請負は違法!

この記事では、建設業の常用契約と請負契約、一人親方の常用契約の違法性などを詳しく解説しました。

建設業では、一人親方(個人事業主)の常用契約は法律で禁じられています。

常用契約は毎日の勤務時間と報酬が決められており、仕事の完成・未完成は問われません。

つまり、常用契約を結ぶのは、従業員として雇用契約を結ぶことになるわけです。

また、従業員になると社会保険への加入も義務付けられるため、個人事業主である一人親方が常用契約を結ぶのは矛盾しており法律的にも禁止されています。

会社と職人を守るためにも、雇用に関して正しい知識を身につけ、法律の遵守を徹底していきましょう。