建設業の財務諸表とは?必要書類や作成のポイントを解説
目次
建設業の財務諸表は、建設業許可を新規申請する場合や決算変更届を提出する際に必要な書類です。
「確定申告用に税理士さんが作成した決算書をそのまま書き写せばいいのでは?」という声を聞きますが、決算書と建設業の財務諸表は別で考えてください。
事業運営に関わる大切な書類なので、他人に作成を任せるにしても自身で内容をしっかり把握しておくことが大切です。
そこでこの記事では、
- 建設業の財務諸表の概要
- 建設業の財務諸表を作成するのに必要な書類
- 建設業の財務諸表を作成する際のポイント
などを詳しく解説します。
建設業の財務諸表は決算書とは別モノ
建設業の財務諸表とは、建設業の許可を新規で申請する際や決算変更届を提出する際に必要となる書類のことです。
具体的には、以下の書類を指します。
- 貸借対照表
- 損益計算書・完成工事原価報告書
- 株主資本等変動計算書
- 注記表
- 付属明細表
建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)では、様式名や勘定科目、記載要領などそれぞれ規定されています。
税理士さんが用意する決算書と財務諸表を同じものと考える人もいますが、別モノで考えてください。
また、法人と個人事業主で作成書類が異なる点にも注意が必要です。
書類作成に関しては、次章で詳しく解説します。
財務諸表は決算報告時にも必要
冒頭で簡単に解説したように、建設業許可を受ける際には財務諸表を準備して提出する必要があります。
また、建設業許可を受けた場合には、事業年度終了後から4ヶ月以内に決算報告書(事業年度終了報告書)を提出しなければなりません。
例えば、3月が決算の会社であれば、7月末までに提出する必要があります。
この場合には、各都道府県によって定められた提出書類が必要であり、財務諸表も含まれます。
必要書類の一例は、以下の通りです。
- 別紙8「変更届出書」
- 工事経歴書
- 直前3年の各事業年度における工事施工金額
- 事業報告書(特例有限会社を除く株式会社のみ)
- 法人事業税納税証明書
- 財務諸表
建設業許可を新規で申請した場合と決算報告時で、用意する提出書類がかぶっているものもあれば、新たに準備するものもあるので注意しましょう。
建設業許可に関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
>>>建設業許可に必要となる6つの要件|要件緩和や取得する流れを解説
決算書との違い
財務諸表と決算書は、言葉の定義から大きく異なります。
決算書 | 税理士さんが作成する確定申告書に添付している書類のこと。貸借対照表・損益計算書・変動計算書および注記表が該当する。 |
財務諸表 | 建設業許可申請や届出において使用する書類のこと。貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・注記表および付属明細表が該当する。 |
両方とも同じ決算期間の数字を表している書類ではありますが、その範囲と詳細度に違いがあるのです。
決算書は、特定期間の財務成績を要約したもので、広い視野を提供しています。
主に税務申告や株主への報告書として利用され、企業のその年の業績を簡潔に示します。
一方、財務諸表は、企業の経済活動全体を詳細に反映した書類です。
決算書のように広く見るのではなく、財務諸表は深い洞察を提供する書類です。
決算書と財務諸表では、書類を見る人に対して、提供する情報の範囲と詳細度が異なると覚えておきましょう。
建設業の財務諸表を作成するのに必要な書類
本章では、建設業の財務諸表を作成する際に必要な書類を紹介します。
東京都都市整備局のページに、財務諸表の作成に必要な書類が掲載されているので、必要な人はダウンロードしてみてください。
また法人と個人事業主で必要書類が異なるので、それぞれで解説しています。
法人の場合
財務諸表の書類として法人の場合に必要なのは、以下の5つです。
- 貸借対照表
- 損益計算書・完成工事原価報告書
- 株主資本等変動計算書
- 注記表
- 附属明細表
それぞれ解説します。
貸借対照表(法人用)
借対照表は、決算時点における会社の財政状態を表す書類です。
「資産の部」「負債の部」「純資産の部」に分けられており、「資産の部」は会社の調達した資金の運用に関して記載する部分です。
「負債の部」と「純資産の部」は、資金の調達先に関する内容を記載する必要があります。
運営する資金を金融機関などから調達した資金(負債)と、株式の発行により調達した資金(純資産)に分けて記載します。
基本的には、決算書の貸借対照表の内容を転記しても問題ありません。
損益計算書・完成工事原価報告書(法人用)
損益計算書は、事業活動の1年間の成績を表した書類です。
損益計算書を確認することで、かけた費用や収益、設け、損失などがわかります。
出典:財務諸表 損益計算書・完成工事原価報告書(法人用)|東京都都市整備局
完成工事原価報告書は、事業年度中に完成した工事の原価(材料費・労務費・経費・外注費など)の内訳を記載する書類です。
出典:財務諸表 損益計算書・完成工事原価報告書(法人用)|東京都都市整備局
建設業における売上高や売上計上基準に関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
>>>建設業の売上計上基準の種類は?売上高と兼業売上高の違いも解説
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、貸借対照表における「純資産の部」の変動内容を記載する書類です。
注記表
注記表は、貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書などの補足情報をまとめた書類のことです。
注記表は会社の種類によって記載する内容が異なるため、会社によっては省略できる部分もあります。
事前に「注記表の記載要領」の内容に目を通しておき、記載が必要な項目を確認しておきましょう。
附属明細表
附属明細表とは、完成工事未収入金 ・貸付金 ・有価証券・出資金・借入金・保証債務の相手先や金額の詳細を記載する書類のことです。
すべての法人が作成する必要はありません。
会社の資本金が1億円以上ある場合や、負債合計200億円以上の場合にのみ作成します。
株式会社以外の法人に関しても作成義務はありません。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は、「貸借対照表」と「損益計算書」の2つの書類を作成します。
また、書類を作成する際には、税務申告で使用した青色申告決算書をもとにして問題ありません。
各書類は、以下のサイトからダウンロードして作成してみてください。
建設業の財務諸表を作成する際のポイント
建設業の財務諸表を作成する際のポイントとして、以下の2つが挙げられます。
- 法律で決められた勘定科目に振り分ける
- 建設業でかかる金額とそれ以外を分ける
それぞれ詳しく解説するので、参考にしてみてください。
法律で決められた勘定科目に振り分ける
建設業の財務諸表の勘定科目は法律で決められているため、決められた内容通りに金額計上することが重要です。
以下が勘定科目の一例です。
勘定科目 | 内容 |
完成工事未収入金 | 営業取引に基づいて発生した手形債権(割引に付した受取手形及び裏書譲渡した受取手形の金額は、控除して別に注記する)。ただし、このうち破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権で決算期後 1 年以内に弁済を受けられないことが明らかなものは、 投資その他の資産に記載する。 |
売掛金 | 兼業事業売上高に係る(税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む。以下同じ。)未収額。 ただし、このうち破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権で決算期後 1 年以内に弁済を受けられないことが明らかなものは、 投資その他の資産に記載する。 |
材料貯蔵品 | 手持ちの工事用材料及び消耗工具器具等並びに事務用消耗品等のうち未成工事支出金、 完成工事原価又は販売費及び一般管理費として処理されなかったもの |
工具器具・備品 | 工具器具:各種の工具又は器具で耐用年数が1年以上、かつ取得価額が相当額以上であるもの(移動性仮設建物を含む)。 |
出典:建設業財務諸表勘定科目の仕訳|株式会社建設業経営情報分析センター
万が一、金額が大きく、定められた勘定科目に該当しない場合は、内容のわかる適切な科目での金額計上が認められています。
建設業でかかる金額とそれ以外を分ける
税務申告する際の財務諸表では、建設業と建設業以外の売上高を合算して計上します。
しかし、建設業財務諸表では、建設業にかかる金額と建設業以外にかかる金額を「兼業」として分ける必要があります。
具体例として、以下の表を参考にしてみてください。
建設業科目 | 兼業科目 | |
売上高 | 完成工事高 | 兼業事業売上高 |
原価 | 完成工事原価 | 兼業事業売上原価 |
総利益 | 完成工事総利益 | 兼業事業総利益 |
未収入金 | 完成工事未収入金 | 売掛金 |
未払金 | 工事未払金 | 買掛金 |
建設業に関する金額を判断するには、国土交通省が公表する「業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方(H29.11.10改正)」を確認し、建設工事の種類に該当するか確認しましょう。
まとめ:建設業の財務諸表を理解して適切な経営判断を下そう
建設業の財務諸表は、建設業の許可を新規で申請する際や決算変更届を提出する際に必要となる書類です。
必要な書類として、以下の5つを解説しました。
- 貸借対照表
- 損益計算書・完成工事原価報告書
- 株主資本等変動計算書
- 注記表
- 付属明細表
非常に内容が細かく複雑な書類も多いですが、適切な経営判断を下すためにも、決算書と財務諸表の内容を理解して作成できるようにしてみてください。