統括安全衛生責任者の役割や仕事内容、なり方について
目次
現代の職場において、労働者の安全と健康を確保することは最も重要な課題の一つです。特に、建設業や造船業などの特定の業種では、複数の労働者が同一の作業現場で作業を行うことが多く、そのために労働災害のリスクが高まります。
これらのリスクを管理し、防止するための重要な役割を果たすのが「統括安全衛生責任者」です。本記事では、統括安全衛生責任者について、以下の視点から解説します。
- 統括安全衛生責任者の役割
- 統括安全衛生責任者の選任が必要な業種
- 統括安全衛生責任者の仕事内容
- 統括安全衛生責任者と混在しやすい職種との違い
また、統括安全衛生責任者に就くための方法についても解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
統括安全衛生責任者とは
統括安全衛生責任者とは、建設業や造船業など特定の業種で、同じ現場で複数の労働者が共に作業する際に起こり得る労働災害や健康問題を防ぐために、現場全体の安全と衛生を管理する役割を担う人物のことです。
ここでは、統括安全衛生責任者の役割と選任が必要な業種について解説します。
統括安全衛生責任者の役割
統括安全衛生責任者の主な役割には、協議組織の設立および運営、作業間の連絡と調整、作業現場の巡視が含まれます。また、関係請負業者が実施する安全衛生教育の指導と支援、作業工程や機械・設備の配置計画の立案も重要な職務です。
さらに、機械・設備の使用に関する法令遵守の指導や運転合図や警報の統一化なども担当します。これらに加え、その他労働災害防止に関する管理業務も含まれます。
統括安全衛生責任者の選任が必要な業種
厚生労働省において、統括安全衛生責任者の選任が必要な業種は以下のように分類されています。
統括安全衛生責任者を選任しなければならない業種は建設業、造船業の2業種で、これらは特定事業といわれます。 |
<建築工事関係>
- ビル建設工事:当該工事の作業場の全域
- 鉄塔建設工事:当該工事の作業場の全域
- 送配電線電気工事:当該工事の工区ごと
- 変電所又は火力発電所建設工事:当該工事の作業場の全域
<土木工事関係>
- 地下鉄道建設工事:当該工事の工区ごと
- 道路建設工事:当該工事の工区ごと
- ずい道建設工事:当該工事の工区ごと
- 橋りょう建設工事:当該工事の作業場の全域
- 水力発電所建設工事:堤工事の作業場の全域、水路ずい道工事の工区ごと、発電所建設工事の作業場の全域
<造船業関係>
- 船殻作業場の全域、艤装又は修理作業場の全域、造機作業場の全域又は造船所の全域
情報引用:厚生労働省|統括安全衛生責任者の選任
統括安全衛生責任者の仕事内容
統括安全衛生責任者の主な職務は、特定元方事業者の工事現場で、元方事業者と関係請負業者の従業員が同じ場所で作業することによって発生する労働災害を防ぐために、指導・統括・管理を行うことです。
具体的な業務内容としては、協議組織の設立と運営、作業間の連絡や調整、作業現場の巡視があります。
また、関係請負業者が行う労働者の安全衛生教育の指導や支援、作業工程や機械・設備の配置計画の立案、機械・設備の使用に関する法令遵守の指導も行います。さらに、下請負業者から提出される書類のチェックや管理などの事務作業も担当することもあるでしょう。
統括安全衛生責任者は、特定元方事業者によって選任され、安全衛生業務に従事し、元方安全衛生管理者を補佐します。
統括安全衛生責任者と混在しやすい職種との違い
統括安全衛生責任者と混在しやすい職種には、以下が挙げられます。
- 元方安全衛生管理者
- 店社安全衛生管理者
- 総括安全衛生管理者
ここでは、上記の職種と統括安全衛生責任者の違いについて解説します。
元方安全衛生管理者と統括安全衛生責任者の違い
特定の資格が不要な統括安全衛生責任者に対し、元方安全衛生管理者には、学歴や建設工事の安全衛生管理に関する実務経験など、特定の資格が必要とされます。
元方安全衛生管理者は、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を任命する際に、その補佐役として選ばれるのが特徴です。
なお元方安全衛生管理者の役割は、統括安全衛生責任者の指示の下で、具体的な技術面の管理を担当することです。
店社安全衛生管理者と統括安全衛生責任者の違い
統括安全衛生責任者には特定の資格は必要ありませんが、店社安全衛生管理者には、適切な学歴や建設工事における安全衛生管理の実務経験などが求められます。
店社安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者が配置される事業場よりも、労働者数が少ない場所で選ばれます。具体的な工事の種類や労働者数については基準があります。
店社安全衛生管理者は建設業に限定され、造船業には該当しません。また、選任した際に労働基準監督署への届出は必要ありません。
なお、店社安全衛生管理者が担う職務は、工事現場で安全衛生管理を実施する現場責任者や現場代理人への指導です。
総括安全衛生管理者と統括安全衛生責任者の違い
総括安全衛生管理者と統括安全衛生責任者の相違点は、取り扱う業種や事業場の規模、そしてその職務内容にあります。
総括安全衛生管理者は、建設業や造船業を除く他の業種において、一定の規模以上の事業場で選任されます。
総括安全衛生管理者が必要とされる業種における分類は、以下のとおりです。
常時労働者が100人以上の業種 | ・林業 |
常時労働者が300人以上の業種 | ・製造業 |
また、製造業においては、製造を行わない本社機能のみを有する事業場であっても、常時労働者が1,000人以上の場合には、総括安全衛生管理者の選任が求められます。
総括安全衛生管理者の職務は、安全管理者や衛生管理者を指揮することです。その職務内容には、以下の事項が含まれます。
- 労働者の危険や健康障害を防止するための措置の実施
- 労働者の安全および衛生教育の実施
- 健康診断の実施および健康保持増進のための措置
- 労働災害の原因調査および再発防止策の策定
- 安全衛生に関する方針の策定
- 危険性や有害性の調査およびそれに基づく対策の実施
- 安全衛生計画の作成、実行、評価、改善
- その他必要な労働災害防止策の統括管理
これらの職務を通じて、労働者の安全と健康を守るための総括的な管理を行うことが、総括安全衛生管理者の責務です。
統括安全衛生責任者になるには?
統括安全衛生責任者になるために特定の資格や実務経験は必要ありませんが、労働安全衛生法第15条第1項に基づく「現場管理者統括管理講習(統括安全衛生責任者講習)」の受講が必須です。現場管理者統括管理講習を修了した人材から、事業者が統括安全衛生責任者を選任するのが一般的です。
さらに、統括安全衛生責任者の選任は、特定元方事業者と関係請負人の従業員の合計が50人以上の場合(ずい道建設や橋梁建設など特定の作業では30人以上)に義務付けられています。選任の必要が生じた日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。
まとめ
統括安全衛生責任者は、労働災害を防止するために重要な役割を担っています。その職務は多岐にわたり、現場での安全管理を統括的に行うことが求められます。
なお、統括安全衛生責任者になるうえで特別な資格は必要ありませんが、適切な教育を受けることが不可欠です。
安全で健康的な労働環境を維持するために、統括安全衛生責任者の役割は今後ますます重要性を増していくでしょう。