建設キャリアアップシステムの義務化はいつから?導入しないことで起こりうる問題も解説
目次
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)の義務化はいつから?
- 【2024年5月時点】建設キャリアアップシステムの運用状況
- そもそも建設キャリアアップシステムとは
- 建設キャリアアップシステムが義務化された理由
- 従業者の処遇を改善するため
- 建設業界における雇用を促進するため
- 社会保険と年金の加入状況を把握するため
- 建退共の掛金未納を解消し加入を推進するため
- 建設キャリアアップシステムを導入しないことで起こりうる4つの問題
- 元請事業者の発注先から外れてしまう
- 公共工事の請負で不利になる
- 客観的な人事評価や人材育成ができない
- 事務作業の効率化が進まない
- 建設キャリアアップシステムの導入において必要な対応
- 事業者の登録
- 技能者の登録
- 各現場の登録
- システムの導入
- 建設キャリアアップシステムの利用料金
- 建設キャリアアップシステムの申請の流れ
- まとめ
建設キャリアアップシステムは、2023年から原則義務化されています。
しかし、2024年5月時点で登録は任意であり、全建設事業者の約半分が未登録の状況です。
建設キャリアアップシステムの登録は、事業者と技能者の双方が大きなメリットを得られるので、なるべく早く登録するのがおすすめです。
そこでこの記事では、
- 建設キャリアアップシステムの義務化と現状
- 義務化された理由
- 導入しないことで起こりうる問題
- 導入する際に必要な対応
- 利用料金と申請の流れ
などを解説します。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の義務化はいつから?
建設キャリアアップシステムの導入は、2023年から原則義務化されています。
しかし、2024年5月時点で建設キャリアアップシステムの登録は任意であり、原則義務化とはいえ登録しなくても罰則はありません。
そのため、登録・利用していない事業者・技能者が多くいるのが実情です。
また、国土交通省の「建設キャリアアップシステム普及・活用に向けた官民施策パッケージ」には、「令和5年度から、CCUS完全移行およびあらゆる工事におけるCCUS完全実施を目指す」と記載されています。
令和6年度に入ってからも完全移行が実施できていませんが、国は建設業の将来を考え、建設キャリアアップシステムの完全義務化を目指していると考えられます。
【2024年5月時点】建設キャリアアップシステムの運用状況
2024年5月時点における建設キャリアアップシステムの運用状況は、以下の通りです。
2024年4月 | 累計 | |
技能者登録数 | 19,125 | 1,423,968 |
事業者登録数 | 3,616 | 法人・個人:174,422 |
新規登録現場数 | 14,614 | - |
就業履歴数 | 4,626,665 | 138,025,084 |
出典:建設キャリアアップシステムの運営状況について|一般財団法人建設業振興基金
国土交通省の発表によると、令和5年度末の建設業許可業者数は479,383業者とのことです。(参考:令和5年度末の建設業許可業者数調査の結果|国土交通省)
そのため、全業者のおよそ半分が、建設キャリアアップシステムを登録しています。
そもそも建設キャリアアップシステムとは
そもそも建設キャリアアップシステム(Construction Career Up System)とは、建設業界で働く技能者のキャリアアップを支援するために導入されたシステムです。
国土交通省と建設業振興基金が主体となり運営しています。
このシステムでは、技能者のスキルや所有資格、現場での職業履歴などデータベースに登録し、客観的な評価や処遇、キャリア形成の支援を目的としています。
具体的には、技能者の情報を登録してICカードを発行することで、作業現場への入退場管理ができたり技能レベルのステップアップにつなげられたりするのです。
建設キャリアアップシステムが義務化された理由
建設キャリアアップシステムが義務化された理由には、以下の4つが挙げられます。
- 従業者の処遇を改善するため
- 建設業界における雇用を促進するため
- 社会保険と年金の加入状況を把握するため
- 建退共の掛金未納を解消し加入を推進するため
それぞれ詳しく解説します。
従業者の処遇を改善するため
まずは、建設業界で問題視されている技能者への処遇が挙げられます。
国土交通省が公表している「建設業を取り巻く現状と課題」によると、年齢階層における技能者の賃金ピークは、45〜49歳です。
製造業のピークである50〜54歳と比較すると、賃金ピークが早く訪れているとわかります
40代後半から50代にかけては、培ってきた経験や技術を活かして、後進の育成に力を使うことになります。
建設業においても例外ではなく、長年かけて磨いたスキルと経験を活用して育成やマネジメントに取り組むため、それらも評価されなければなりません。
しかし、データを見る限り、建設業では、人材育成やマネジメントスキルへの評価が足りていない可能性があります。
経験やスキルよりも、若くて動ける人材を重宝しているとも読み取れます。
建設業界において、スキルや経験、実績によって適切な処遇がされることで、建設業が長く働き続けられる職業として変われるでしょう。
そのためにも、仕組みを導入し業界を改善する必要があるのです。
建設業界における雇用を促進するため
建設業界の処遇問題と合わせて、大きな問題になっているのが、若手人材の不足と経験者の高齢化という雇用面です。
国土交通省の「建設業を取り巻く現状と課題」では、年齢階層別の技能者数のデータを公表しています。
グラフからもわかるように、技能者数が最も多いのは65歳以上で、全体の25%以上の79.5万人です。
そして最も少ないのが、10〜20代で全体の12%、約37万人です。
このデータからは、高齢の技能者が引退したあとに建設業界をになっていくはずの、若手人材の数が不足していることがわかります。
若手人材がさまざまな理由から建設業への就職を避けているため、働きたいと思えるような業界にする必要があるのです。
そのためにも建設キャリアアップシステムを活用して、技能者の客観的な評価と適切な処遇を受けられる環境整備を進めています。
社会保険と年金の加入状況を把握するため
建設業者のなかには、事業者が社会保険に加入せず、従業員が本来受けられるはずの法定福利が利用できないケースがあるのです。
社会保険の未加入は、結果的に人材の流出につながります。
この問題を解決するために、建設キャリアアップシステムの登録時に社会保険に関する内容も登録する必要があります。
現場入場時においても社会保険の加入状況が確認できるため、元請業者が社会保険に加入していない下請業者を把握できるようになるのです。
建退共の掛金未納を解消し加入を推進するため
これまで多くの手間がかかっていた建退共(建設業退職金制度)ですが、建設キャリアアップシステムの導入により、業務の効率化が期待できます。
建退共は、技能者が退職金を得るための大切な制度であり、技能者を保護するうえでも必要な制度です。
しかし、証紙発行時の事務作業が煩雑になりやすく、証紙の交付が適切に実施されないこともあり、掛金の未納も問題視されています。
建設キャリアアップシステムを導入することで、掛金の未納問題を解決でき、従業員を守るための制度への加入を推進できます。
建設キャリアアップシステムを導入しないことで起こりうる4つの問題
建設キャリアアップシステムを導入しないことで起こりうる問題として、以下の4つが挙げられます。
- 元請事業者の発注先から外れてしまう
- 公共工事の請負で不利になる
- 客観的な人事評価や人材育成ができない
- 事務作業の効率化が進まない
それぞれ詳しく解説します。
元請事業者の発注先から外れてしまう
建設キャリアアップシステムを導入しない場合、元請事業者の発注先から外れる可能性があります。
2024年5月時点で、全建設業者の半分以上が同システムに登録しており、多くの元請事業者も登録していると考えられます。
実際に「建設キャリアアップシステム」の公式サイトでは「登録事業者検索」でき、事業者名か所在地で登録事業者の確認が可能です。
今後は、建設キャリアアップシステムのデータを使って、下請業者の企業情報や技能者の経歴を客観的に評価する元請事業者が増えるでしょう。
とくに、技能者の資格や実績がシステムに登録されていると、その信頼性や透明性が向上し、発注先として選ばれる確率が高まります。
そのため、建設キャリアアップシステムに登録していない企業は、選ばれにくくなり、不利な立場に置かれると考えられます。
公共工事の請負で不利になる
建設キャリアアップシステムを導入しないことで、公共工事の受注に悪影響が懸念されます。
下請業者は、公共工事の受注において「経営事項審査」を受けなければなりません。
経営事項審査では、客観的事項と主観的事項を基に数値化し、建設業者を順位付けします。
経営事項審査の評価ポイントは、「経営状況」「経営規模」「技術力」「そのほかの審査項目」があり、建設キャリアアップシステムの登録も評価対象です。
このように、建設キャリアアップシステムの登録の有無によって、公共工事の受注に影響をおよぼすと考えられます。
客観的な人事評価や人材育成ができない
建設キャリアアップシステムは、技能者の経験や保有資格、マネジメント能力などを登録できるため、客観的な人事評価や人材育成に役立てられます。
また、技能者の経験年数や資格、班長経験年数などによって、以下のように4段階のレベルに分けられます。
- レベル4|高度なマネジメント能力を有する者(登録基幹技能者等)
- レベル3|職長として現場に従事できる者
- レベル2|中堅技能者(一人前)
- レベル1|初級技能者(見習い)
各レベルによってカードが色分けされるため、客観的に技能者のレベルを判断でき、技能者のキャリア構築・目標設定にも役立てられるのです。
建設キャリアアップシステムを導入しないことで、人事評価や人材育成の効果的な機会を逃すことになります。
事務作業の効率化が進まない
建設キャリアアップシステムを導入しないことで、スピード感をもった事務作業の効率化ができなくなるでしょう。
例えば、ICカード一つで現場作業員の現場への入退場が管理できれば、出退勤時間が明確になり労務管理・勤怠管理の手間が減ります。
また、経験とスキルを客観的に確認できるため、人員の配置決めにかける時間も短縮可能です。
建設キャリアアップシステムを導入しなければ、事務作業の効率化は進みにくいと考えられます。
建設キャリアアップシステムの導入において必要な対応
建設キャリアアップシステムの導入において必要な対応は、以下の4つです。
- 事業者の登録
- 技能者の登録
- 各現場の登録
- システムの導入
それぞれ詳しく解説します。
登録は、「建設キャリアアップシステム」のインターネット申請または窓口申請のどちらかで進められます。
事業者の登録
建設キャリアアップシステムを導入する際には、まず事業者の登録が必要です。
事業者を登録すると、技能者の就業履歴の確認や現場の入退場管理などが容易になり、業務効率の改善につながります。
事業者登録では、「会社情報」と「社会保険加入情報」を登録します。
また、以下の確認書類の提出も必要です。
- 会社情報:事業者確認書類
- 社会保険加入情報:社会保険加入証明書類
事業者登録には、申請に1週間前後、確認審査で2週間前後かかります。
技能者の登録
技能者登録では、技能者の経験やスキル、資格などを登録でき、人材育成や処遇改善に役立ちます。
技能者の登録で必要な項目は、以下の通りです。
- 本人情報
- 所属事業者情報
- 社会保険情報
- 保有資格情報
- 健康診断のほか各種資格情報
各情報の登録に確認申請書類の提出が必要で、登録完了すると、建設現場の入退場時に使用する建設キャリアアップカードを取得できます。
技能者登録には、申請に1週間前後、確認審査で3週間前後かかります。
各現場の登録
建設キャリアアップシステムを運用するにあたり、建設現場ごとに以下の内容を登録する必要があります。
- 現場名
- 現場所在地
- 元請事業者名
- 工事内容 など
現場登録に関しては、元請業者と下請業者でそれぞれ登録する内容があります。
システムの導入
現場の登録が完了したあとは、技能者の入退場を管理するためのICカードリーダーやタブレット端末などの機器を導入する必要があります。
ICカードリーダーやタブレット端末の設置・導入において、インターネット接続の有無を含めた設置環境の確認が必須です。
建設キャリアアップシステムの利用料金
建設キャリアアップシステムを利用する際は、事業者と技能者でそれぞれ利用料金がかかります。
技能者が登録する際にかかる料金は、以下の通りです。
型の種類 | 概要 | 料金 |
簡略型 | 本人情報・所属先情報・職種・経験・社会保険情報を登録可能 | 2,500円 |
詳細型 | 簡略型で登録した情報に加えて、資格・健康診断等の全情報を登録可能 | 4,900円 |
参照:建設キャリアアップシステムについて|一般財団法人建設業振興基金
事業者が本システムを活用する際は、以下のように資本金額で登録料が変わります。
資本金 | 登録料(税込) |
500万円未満(個人事業主を含む) | 6,000円 |
1,000万円以上2,000万円未満 | 2.4万円 |
5,000万円以上1億円未満 | 6万円 |
1億円以上3億円未満 | 12万円 |
10億円以上50億円未満 | 48万円 |
参照:建設キャリアアップシステム ご利用方法・料金|一般財団法人建設業振興基金
※一部を紹介しているので、詳しくはサイトをご覧ください。
また、事業者は管理者IDの利用料として、1IDあたり11,400円(税込)です。
さらに、現場利用料として、技能者1人で1日あたり10円がかかります。
建設キャリアアップシステムの申請の流れ
申請する際は、インターネット入力または認定登録機関窓口での直接申請が選べます。
本記事では、インターネット申請の流れを解説しています。
【技能者の登録】 |
1.一般財団法人建設業振興基金の登録フォームに進む |
【事業者の登録】 |
1.一般財団法人建設業振興基金の登録フォームに進む |
参照:建設キャリアアップシステム 登録する|一般財団法人建設業振興基金
申請は、一般財団法人建設業振興基金の公式サイトからおこなってみてください。
まとめ
建設キャリアアップシステムは、2024年5月時点で登録が義務化されています。
登録は任意であり、全建設事業者の約半分がまだ登録していない状況です。
しかし、国が積極的に動いている制度であり、今後は完全義務化になると考えられます。
また、建設キャリアアップシステムに登録することで、事業者・技能者双方にとって、大きなメリットになるので、検討している人は早めに登録しておきましょう。
なお、建設キャリアアップシステムとは別に、社内の業務効率の改善を検討している方は、弊社クラフトバンクが提供するクラフトバンクオフィスがおすすめです。
各業務を一元管理でき、事務作業の時間削減につながるので、ぜひ導入を検討してみてください。